本研究課題では、階層ベイズモデルにおけるモデリングの方法論についての研究を行なった。特にスパース推定の問題を扱い、階層ベイズモデルにおけるハイパーパラメータ推定を効率よく行う方法についての研究を遂行した。 2021年度は、グループテストと呼ばれるスパース推定の問題において、ベイズ推定を導入した場合の推定値の決定法についての研究を行なった。この問題は離散変数を扱うため、連続値を出力する関数である事後分布のみでは、値を決定することができない。そこで本研究ではベイズ決定理論を導入し、確率分布の出力がある値以上であれば1、それ以下であれば0、というカットオフ値を決定する方法を研究した。 離散値の決め方については、従来法ではMPM推定量が用いられてきた。これはカットオフ値0.5に対応する。このカットオフ値の決め方は、真値と推定値の二乗誤差を最小化するという目的には合致する。しかしグループテストの問題でMPM推定量を無闇に用いると、真値が0である場合に正しく0と推定する確率は上がるが、一方で真値が1である場合に誤って0と推定する確率が上がる傾向にあることを突き止めた。 この点を修正するため、我々は効用関数を導入してカットオフ値を決定する方法を開発した。この効用関数とは、推定の誤りが与える影響を定量化したものであり、一般に「真値0であるのに誤って1と推定した場合に生じる影響」と「真値1であるのに誤って0と推定した場合に生じる影響」という二つのパラメータから構成される。ベイズ推定の枠組みで、これらパラメータに関して一般的な形で、効用関数最大化という指針からカットオフ値を表現できることを示した。 我々の提案手法に従うカットオフ値を用いた推定により、従来法の推定精度が大きく改善された。またハイパーパラメータを階層ベイズモデルにより推定しつつ、離散変数の推定も実行することができることを示した。
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