本研究課題では,人間の他者との協調を支える認知情報処理機構の理解を目的とし,認知神経科学・機械学習・ロボティクスの観点を統合したロボット構成論的手法により取り組む.特に,(i)環境変化や他者のふるまいといった外的要因と(ii)自己の将来の行動に関する計画や意図といった内的要因によって生じる協調の形成とその崩壊に関する動的過程に着目する. 令和四年度は,これまでに構築してきた計算フレームワークを協働ロボットへ応用し,人とロボットのインタラクション実験を実施した.具体的なタスクとして,協調物体操作タスクを設定し,複数の物体が置かれた作業空間において,人とロボットがある特定の目標状態に向かって,それぞれの位置から操作可能な物体を配置することを要求された.タスク開始前に人とロボットの間で目標状態は共有されるが,人がその目標状態を作業途中で変更した場合に,ロボットは学習した経験と現在の状況から変更された作業目標を動的に推論し,自身の行動計画を切り替えることが可能かどうかを検証した.実験の結果,そのような協調状態が一度崩壊した状況においても,計算フレームワークが備える自由エネルギー(予測誤差)最小化原理によって,再び協調状態の形成が可能であることが確認された. 研究期間全体を通して,二個体間における協調の形成と崩壊を予測符号化に基づき扱うための,勾配法に基づく最適化手法及びその高速化を実現するための変分推論法を提案した.これらはロボット構成論的手法によって検証すると同時に協働ロボットにも応用することで,基礎・応用の両側面に関して評価することができた.
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