研究課題/領域番号 |
19K20365
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
寺田 裕 国立研究開発法人理化学研究所, 脳神経科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (40815338)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 位相振動子系 / 平均場理論 / 場の理論 / 格子細胞 / 嗅内皮質 |
研究実績の概要 |
脳神経系が行っている時空間情報処理のメカニズムを数理的に解明することを目指す.まずはスパイクを発するニューロンから構成されるネットワークやリズムを持つ素子から構成されるネットワークを扱うために標準的な位相モデルの理論解析を行う. 2019年度では位相縮約理論に基づき導出される結合位相振動子系の非線形ダイナミクスを解析するための理論を構築した.従来,結合位相振動子系の多くの解析は理論解析の容易さのために均質結合に対して行われている.しかし,空間の情報処理など脳神経系の高度な情報処理に関する数理モデルを考慮する際には結合の不均質性を取り込んだ結合ネットワークモデルを用いることが必要となる.そこで,位相モデルのダイナミクスに対し生成汎関数を経路積分に基づき構築し,動的平均場理論を結合位相振動子系に対し発展させた.結合強度でPlefka展開を行い,弱結合の近似のもとミクロなオーダーパラメータが満たすべき動的平均場方程式を導出した. 今後は嗅内皮質における格子細胞や海馬における場所細胞といった神経系が示す固有の非線形ダイナミクスを表現する結合振動子モデルやシータニューロンモデルを構築する.さらに,動的平均場方程式から逆問題の定式化を行い,アクセス可能な実験データからモデルのパラメータ推定を行う.観測データとの整合性も取りながら理論研究を進めていく. そして上記の結合系が示す非線形ダイナミクスを理論解析し,計算能力を評価し,非線形ダイナミクスと情報処理能力の関係を調べる.リズムと乱雑な活動が共存する系に記憶容量や時空間に関するタスクを行わせることで,リズムの持つ計算論的役割を明らかにする.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
理論解析や逆問題推定の出発点となる動的平均場方程式の導出ができた.さらに結合強度に関して高次の展開を行えば,結合位相振動子系に対する動的TAP方程式が導出できる.逆問題の定式化まで行った後に論文として出版する予定である.
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今後の研究の推進方策 |
理論解析においてまずは標準的な不均質結合を持つ蔵本モデルを用いた.位相縮約理論に従えば,非常に広いクラスのリズムを有し互いに相互作用する系が不均質結合蔵本モデルへと縮約される.しかしながら,格子細胞や場所細胞のような神経回路網は必ずしもリズミックな状態にあるわけではない.一方,神経細胞のスパイク的性質を記述するQuadratic integrate-and-fireモデルは簡単な変数変換を通じてシータモデルへ縮約される.そのため,上記の理論解析手法をシータモデルなど他の重要なモデルへ拡張を行うことが重要である. さらに,逆問題的定式化が行えれば,神経系において多点同時計測されたスパイクデータなど実データに適用することが可能となる.このように時空間情報処理の背後にある動的な結合系を推定することで,その情報処理メカニズムへ迫る.
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次年度使用額が生じた理由 |
書籍などを購入する予定だったが,書籍の値段が残額より大きいため,次年度以降の予算と合わせることで購入をする.
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