研究実績の概要 |
2022年度は、前年度に引き続き自発的なネットワーク構造を形成するシステムの情報伝達について研究した。各要素の状態に応じて要素間の結合が変化する多素子離散力学系について、要素間同期に依存した接続の変化により形成される自己組織化された有効ネットワーク構造の形態を包括的に研究した。神経伝達ネットワークにおけるグリア細胞を介した局所的な相互作用を模した効果を取り入れることで、これまで見られたペア駆動型ネットワーク、ループ駆動型ネットワーク、隠れトリオ駆動型ネットワーク、隠れコミュニティ駆動型ネットワーク以外にも、2本鎖ネットワーク構造や、非対称なコミュニティ駆動型ネットワークが自発的に形成されることが観測された。また、ネットワークのスモールワールド性についても解析を行い、局所的な相互作用と帯域的な結合強度の変化における時間遅延によって、スモールワールドネットワークを促進することが明らかとなった。 本研究課題では、シンプルなネットワークによる情報伝達特性を調べ、ついで、複雑なネットワークを持つ系における情報伝達に着目した。さらに、要素間での自発的な相互作用により駆動されるネットワーク再構築について研究を行なった。これらの一連の研究を通して、生命における情報伝達やネットワーク構造の自発的な形成過程を追うことができた。また本研究で得られた情報論的解釈は、実際の細胞集団や個体レベルでの情報伝達・ネットワーク構造の理解にもつながっており、成果が多分野に波及している([1] T. Wada, et al, Cell Rep. (2020), T. Kokaji, Sci. Signal. (2020), Fujita et al. npj Syst. Biol. Appl. (2022)など)。
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