研究課題/領域番号 |
19K20392
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研究機関 | 国立研究開発法人情報通信研究機構 |
研究代表者 |
横田 悠右 国立研究開発法人情報通信研究機構, 脳情報通信融合研究センター脳情報工学研究室, 研究員 (10710593)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 仮想空間 / 脳波 / 実環境計測 / フィードバック関連陰性電位 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,VR空間と完全に時刻同期できる脳波計システムの作成とそれを用いてVR空間上でヒトの脳活動を調査することである.昨年度は,情報通信研究機構が保有するワイヤレス同期システムを用いて脳波計とVR空間をミリ秒以上の精度で同期させることに成功し,そのシステムを用いてVR空間上でシューティングゲームを行ったときのヒトの脳波を計測した.具体的には,VRソフトウェアを制御するコンピュータのCPUタイム情報をワイヤレスで送信する発信機と,その信号を受信できる受信機を脳波計に搭載することで時刻同期系を実現させた.本年度は,その計測した脳活動データをさらに精査したところ,シューティングゲームにおいてミスをしたときに発生する脳波成分(フィードバック関連陰性電位)がヒトの一時的な感情価に応じて変化することが明らかになった.一方で,シューティングゲームにおいて成功時に発生する脳波成分(報酬陽性電位)はこの一時的な感情価に応じて強く変化する傾向は観測されなかった.この研究成果を国際学術雑誌のfrontiers in Human neuroscienceに投稿し,審査の結果,掲載が承認された.
また,新たな脳波計測研究として,ヒトの恐怖に関連する脳波計測実験を実施した.具体的には,ヒトに恐怖を感じさせるためにホラーゲームをVR空間で実施し,そのときの脳波を計測した.その結果,ヒトの心拍のタイミングに応じて出現する心拍変動関連電位と呼ばれる脳波成分が恐怖の度合いに応じて変調することを明らかにした.
本研究は国立研究開発法人情報通信研究機構の倫理委員会およびパーソナルデータ取扱研究開発業務審議委員会の承認を受け,すべての参加者に対して実験内容について事前に十分な説明を行った後,参加の同意を得た上で行われた.すべての実験は,ヘルシンキ宣言に記載された倫理基準に従って実施された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
VR空間上におけるシューティングゲーム中の脳波計測研究は,初年度に作成したVR空間と脳波計測データを完全に時刻同期できるシステム作成(以下,VR時刻同期システムと定義)の成功により,無事に研究データを計測することができた.本年度は,その計測されたデータをさらに精査すること,およびその研究成果を世界に発信するための論文執筆および投稿が目的であった.この2つの目的はfrontiers in Humanneuroscienceに投稿および採択されたことで無事に達成された.
本年度はさらに,VR時刻同期システムを用いたさらなる脳波計測研究としてホラーゲーム中にヒトが感じる恐怖という感情を脳波から評価するための実験系を発足した.ヒトが感じる様々な感情の中で恐怖という感情は特徴的である.生物学的にヒトは本能的に恐怖を忌避する一方で,アミューズメントパークのお化け屋敷やジェットコースターはあえて恐怖を楽しむためのアトラクションであり,一部のヒトはこのようなアトラクションで恐怖を感じることを楽しみにしている.しかしながら,恐怖という感情を研究室内で再現することは一般的に困難であるが,VRという仮想的な環境であれば,お化け屋敷を擬似的に体験することが可能である.本年度は,このVRでお化け屋敷を体験するためのソフトウェア制作,実験を行うための環境構築,および,それらのシステムを用いた脳波計測実験を実施した.その結果,ヒトの心拍のタイミングに応じて出現する心拍変動関連電位と呼ばれる脳波成分が恐怖の度合いに応じて変調することを明らかにした.VR時刻同期システムを用いた新しい研究も実施しており,本研究は当初の計画以上に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
VR時刻同期システムを用いて新たな脳波計測実験を実施する予定である.具体的には,ヒトがVR空間で,自分以外の姿のアバターを使用することの効果に注目する.これはヒトが,社会的生物であり,自分自身の姿の変化が,行動結果や脳活動を変化させるのではないかと考えたためである.同様に,自分と他人が同じVR空間上で共同作業や競争作業を行ったときに,お互いのアバターの姿を変化させることで,同様にそのときの行動結果や脳活動が相互作用的に変化する可能性である.今後の研究は,このようなヒトの社会的行動に焦点を当てた研究を実施する予定である.この実験を行うためのVR時刻同期システムは上述した2つの研究によってVR空間で有効に動作することが保証されている.最終年度は,VR時刻同期システムを搭載した実験系の構築と計測実験を実施する.
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次年度使用額が生じた理由 |
実験系の構築および実験のために必要な費用が想定よりも少なくて済んだため,次年度使用額が生じた.これは次年度における脳波計測実験のための予算として計上する予定である.
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