感染症の流行動態の解析は、流行の現状および将来の把握や、介入効果の推定を行うことができ、流行制御の第一歩となっている。一般的には、感染症流行動態解析は感染個体数の時系列解析である。しかしながら、性感染症や魚病では感染個体数の把握は困難である。性感染症は性行動と関係しており、診断は性行動を明らかにしてしまう恐れがあるため感染者数の把握は困難であり、魚病は診断のコストや診断の難しさから感染個体数の把握は行われないことが多い。この様に、魚病と性感染症は性質が似ており、かつ、魚病は人間の性感染症と比べデータの取得のしやすく、感染実験を行うことで病態の理解も得やすい。魚病での疫学解析の手法の開発は性感染症の解析手法の開発より進展が見込まれ、かつ性感染症の疫学解析にフィードバックしやすいと考えられる。 一方で、魚病の疫学解析はこれまでに殆ど行われてこなかった。そこで、まず、性感染症のこれまでの疫学解析手法を魚病の疫学解析に応用し、死亡個体数の時系列データのみが観察されている状況から、通常の疫学解析で用いられる感染個体数の時系列データを推定するフレームワークを構築した。このフレームワークには、感染後の病態の進展の理解が必須である。このために、魚病の感染実験データを、感染後の病態の進展の数理モデルを構築した上で解析するフレームワークも構築した。これにより、感染実験のデータと流行の観察データを数理モデルで紐付け、これまで流行解析が出来なかった魚病の流行の観察データの流行解析を可能にした。 このフレームワークをニジマス集団のOMVDにあてはめ、基本再生算数を推定し、OMVDの伝搬性は体サイズに依存することが明らかになった。
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