低線量の放射線が照射された培養細胞集団では、高線量放射線照射時とは異なるストレス応答が報告されている。本研究の目的は、組織、器官、個体の基本構造である「3次元細胞群」において、ミクロな階層である「細胞レベル」で、「低線量放射線ストレス応答の時空間動態」を推定・制御することである。 本年度では、昨年度構築した3次元細胞群のセルオートマトンモデルに対して、低線量放射線照射を想定し、様々な入力に対する細胞群の応答を解析した。特に、細胞群全体に対する時間と空間の累積線量は一定として、空間の線量密度が異なる局部照射と、時間当たりの線量(線量率)が異なる照射で、細胞死を指標として、従来研究の実験結果と比較した。その結果、本モデルの計算結果が従来研究の生存率曲線の特徴を捉えていることと、モデル内の各種パラメータ値を最適化すれば実験結果の再現が可能であることを確認した。最適化手法については、昨年度は確率的勾配法でモデルの出力結果からの学習が局所解に留まってしまったため、数値解析ソフトウェアのMatlabで準備されている制約なし多変数関数の最小値を求める関数を用いた。この関数を用いた最適化でも、初期値依存で局所解に留まることが多かったが、パラメータ全体の大域的最適化と、一部のパラメータの局所的最適化を段階的に使用することで、十分な最適化が達成できた。一方で、当初の計画にあった放射線入力の逆向き推定の学習までには至らなかった。
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