かんが無秩序な細胞増殖により発症するのは多数の蓄積したゲノム変異が細胞内の正常な分子経路を破綻させるからである。したがって、がん細胞内の代謝パスウェイの発現変化は遺伝子変異に依る発がんの結果と言える。言い換えれば、遺伝子変異とそれが起きるシグナル伝達系などの代謝パスウェイの発現変化の解明により、がん発症の決定的なメカニズムの理解に繋がる。異常代謝パススウェイの原因としての遺伝子変異を理解できれば、クリニカルシーケンスによる遺伝子変異診断から、実際に細胞中で何が起きているかを理解することが可能になる。以上の観点から、がん細胞のクリニカルシーケンスの結果に基いて、がん細胞内で実際に起きている代謝パスウェイの異常がどの変異が原因で起きているかを明確化し、がん代謝パスウェイネットワークの構築に基づいたドライバー遺伝子同定の研究を実施した。研究計画に基づいて、(1)変異の特徴の層別化、(2)代謝ネットワークの破綻経路の明確化、(3)ドライバー変異モジュールの同定、(4)発がんメカニズムと治療ターゲットの考察、の4つの課題を順次解析してきた。また、胃がんにおいて組織病理学的分類とゲノム変異に基づく分類から得られる多くの症例が重複する2つの異なるサブタイプの類似点と相違点について、がん変異とパスウェイとの関連性を探索する研究との関連で明確化し研究論文を発表した。TCGAやICGC等の大規模がんゲノムデータを活用することで、がんの発症メカニズムについて議論できる土台ができ、がん患者の変異パターンに基づいて最適な治療を選択できる可能性が示唆された。今後、がんのゲノム変異の視点から個別化医療基盤の整備に向けて本研究成果を活用することが期待できる。
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