研究実績の概要 |
ゲノムシークエンス技術の発展により、数多くのゲノムの違い(バリアント)が報告されるようになったが、未だその多くが機序不明である。タンパク質立体構造の動態的変化が、薬剤感受性などに影響を与えると考えられている。つまり、バリアントと疾患の関連や薬剤感受性への影響を解明するには、静的なタンパク質構造の変化だけでなく、バリアントによる動態変化を捉えることが重要である。本研究の目的は、バリアントに対する分子動力学シミュレーションで得られる時系列データから、タンパク質立体構造ダイナミクスの動態的な変化を表す特徴抽出およびその可視化手法の開発である。2020年度は、前年度に実施した薬剤耐性既知キナーゼを対象とした検証データの詳細分析と可視化方法の検討を行った。 本研究では、薬剤耐性について生化学的実験においても多くの研究報告があるEGFR(epidermal growth factor receptor)を対象に、第1世代EGFR阻害剤であるGefitinibとの薬剤感受性が実験的に検証されており、かつ、立体構造決定されている2変異体(薬剤奏功変異L858R, 耐性変異G719S)と野生型に対して解析を行なった。分子動力学シミュレーションで得られた2変異体と野生型の時系列データに対し、周波数解析手法である連続ウェーブレット変換と行列分解法による次元圧縮を適用し、各原子の振動を低次元で表現する特徴ベクトルを作成した。さらに、得られる各変異体における特徴ベクトルの差を評価するため、時系列データの類似度を評価するDynamic time warpingを用い、変異体間でのダイナミクスの違いについて検証を行なった。
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