本研究の目的は,単一細胞オミックスデータに基づいて細胞系譜推定から比較までを高精度に行う統合解析アルゴリズムを開発することである.その目的達成のために(1)情報の損失をできるだけ抑えた細胞系譜推定手法の開発および(2)グラフ理論に基づく新たな細胞系譜比較手法の開発を行い,さらにこれらを通して生物種間における細胞系譜の差異について解析を行った. 昨年度までは(1)および(2)に関して,個々の細胞間のノイズを取り除くために類似細胞のクラスタリングを適用した木構造を構築し,さらにそのようにして構築された木構造間のアラインメントを計算して細胞群(クラスター)の対応関係を求める手法を開発した.この手法をヒト繊維芽細胞およびヒト骨格筋芽細胞のデータに適用し,2つのデータセット間の細胞群の対応関係を求め,さらにアラインメント上のパスから動的時間伸縮法に基づいて擬似時間の比較を行い,既存の報告と同様の結果が得られることを確認した.ここまでの成果はプレプリントリポジトリである「bioRxiv」にて公開し,学会および研究会にて発表した.上記のデータ以外にも人工データやヒト骨髄の細胞データへと提案手法の適用範囲を拡大し,その有効性を確認する実験を追加で行った.最終年度では,他手法との比較および機能遺伝子群解析などを行い,手法の有用性に対する考察と本手法によって得られた結果の生物学的解釈をさらに充実させたうえで論文投稿を行った.
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