研究実績の概要 |
本研究の目的は、細胞運動時に協調的に作用するRhoファミリー低分子量Gタンパク質(Cdc42/Rac1/RhoA)の活性情報から細胞端の形態変化をモデル予測することである。蛍光分子プローブを用いて、個別にライブセル計測した3つのRho活性と形態変化の時空間データに対して逆相関解析を行い、個別の形態変化パターン(持続的な伸長や一過的な伸長、持続的な退縮など)に対応したRho活性の時間変化パターンをスクリーニングして、データを統合化する。統合化された時系列データと細胞-基質間の相互作用を考慮した生物物理モデルに対して、逐次ベイズ法に基づく状態推定(データ同化)を行い、細胞端の形態変化をモデル予測する。形態変化に応じた不可観測な膜張力を同時に推定する。これまでに、形態変化パターン(結果)に基づく細胞端のRho活性変化パターン(原因)のデータスクリーニング方法として、Motion-Triggered Average(MTA)を開発した。2022年度は、MTAの対称実験として、細胞端より内側のRho活性変化パターンをMTAで抽出し、Rho活性変化が減弱することを確認した。MTA開発とMTAを用いて抽出したRho活性と形態変化の時系列データと生物物理モデルによるシステム同定の研究結果を学術成果として論文発表を行った(Kunida et al., Cell Reports 2023)。またデータ同化手法のケーススタディとして、細胞の運命決定や走化性を制御している適応性分子ネットワークであるincoherent Feed Forward LoopとNegative Feedback Loopの数理モデルに対して、データ同化手法の1つである粒子フィルタを用いて、出力分子の時系列データから不可観測の内部分子の状態を推定する解析アルゴリズムの開発を行った。
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