前年度までに取り組んでいた圧縮マルチスペクトルイメージング法の改善とより深い実験的検証をおこなった.これは,回折格子を光波の分散のために用いる手法であるが,分散しない0次光もうまく活用することで再構成画質が向上するものであり,パラメーターや実験系を最適化することでより高品質な再構成像を得られるようになった.また,本手法は単一露光で分光画像が得られることが特徴であり,本来動的な対象物の計測に適用できるはずであった.これの実証のために既知のスペクトル分布をもつ対象物を回転ステージに取り付けて動いている様子を計測した.この結果,数rpm程度の速さの回転であれば問題なく計測できることが示された.ただし,より速く動く対象物の計測では,露光時間が短くなりすぎるため再構成画質の低下が避けられない.この点については,より光利用効率を高める工夫をしていかなければならない. 光波の分散のための素子としての体積ホログラフィック素子についても基礎検討をおこなった.分散のために用いる前段階として,体積ホログラムを適切に媒体に記録できる条件を追究したほか,分散素子としての使用も見越して異なるホログラムの多重記録実験もおこない,二つの異なるホログラムの多重記録とこれらの選択的な再生に成功した.分散や変調のための素子としての使用には至らなかったが,今後の研究の進展への足掛かりとなる成果は得られたといえる. 一方,シャックハルトマン(SH)センサーの研究にも引き続き取り組み,深層学術を導入した手法のさらなる改善にも取り組んだ.SHセンサーのマイクロレンズアレイの各開口に入射した微小波面の曲率に加え,より高次の収差情報を深層学習により取得することで,従来よりも空間分解能を向上させることに成功している. これら要素技術を組み入れたシステム化には至らなかったが,目標達成のための十分な要素研究が実施できたと考えている.
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