研究課題
まず大腸がんの臨床患者検体を使った予後つき公開遺伝子発現データを網羅的に探索し、複数の異なるプラットフォームで得られたそれらのデータを統合的に解析するためのパイプラインを構築して実際に複数のコホートを超えた大腸がんの予後規定遺伝子を網羅的に探索した。また、TCGAの大腸がんデータを使ってがん部と正常部で発現変動する遺伝子を網羅的に探索した。これら両者の基準 (正常と腫瘍で発現変動する大腸がん予後規定遺伝子) を満たす77の遺伝子を同定した。次に、これらの遺伝子発現を使って大腸がんの10年生存率や再発率を予測するような機械学習モデルを公共データを使って構築し、このモデルが未知のテストデータに関しても効果的に患者を複数に層別化できることを確認した。これまでにも同様の予後予測法は多数提案されているが、今回我々が開発した手法がそれらと根本的に異なるのは、この層別化法がほとんど全ての大腸がんサブセットに適応可能であることである。例えばTNMステージIIやIIIの患者にも適用可能であるし、高齢の患者さんでも比較的若年患者でも予後の層別化ができる。大腸がん患者の半数にはTP53遺伝子の突然変異が観察され、この変異がある患者さんは既存の方法では層別化できないという問題があったが、我々の手法はこのp53に突然変異がある患者さんであっても層別化することができる。実際、多数の臨床指標や遺伝子マーカーも組み合わせたCox比例ハザードモデルによる多変量解析を実行したところ、我々が提案する層別化法はこれらの交絡因子とは独立に予後に寄与し、その効果量も非常に大きいことが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
このように、最初の重要なポイントである大腸がんのユニバーサルスコアの開発には概ね成功し、あとはこのスコアを使った層別化手法が持つ臨床医学への応用性を探索したり、胃がんへの応用を考えるのみとなっている。また本研究は国内の主要な学会で発表し、専門の研究者らとも建設的な意見交換をした。そういったフィードバックを受け改良をしていくフェーズに入っている。本研究は最初のモデル作成に1つのボトルネックがあるので、そこを1年目で早くもクリアできたことは、今後の展開がスムーズに行くことを予想させるものだ。
現在まで順調に研究が進んでおり、大腸がんのユニバーサルな分子スコアについては概ね開発が完了した。今後はこの層別化手法が持つ大腸がん治療への有用性を検討するため、分子プロファイルを模倣するような細胞株や臨床検体を使った分子生物学的な研究をしていくことになる。さらに、胃がんへの応用性についても、胃がんと大腸がんは由来やその病理組織像が概ね類似していることから比較的類似した分子プロファイルが期待され、大腸がんの層別化法をベースにした転移学習による微調整で対応できると考えている。胃がんと大腸がんの統一的な分子プロファイルを明らかにし、腫瘍学のさらなる発展に貢献できるような学術論文としてまとめていく。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件)
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