研究課題/領域番号 |
19K20432
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研究機関 | 茨城大学 |
研究代表者 |
増永 英治 茨城大学, 地球・地域環共創機構, 助教 (90779696)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 霞ヶ浦 / 乱流混合 / 熱収支 / 貧酸素水塊 / 栄養塩溶出 |
研究実績の概要 |
研究計画通りに霞ヶ浦において集中的な実地調査を行い,湖内における詳細な物理構造と関わる栄養塩の動態が明らかになった.YODA Profiler,乱流計(VMP-250),高速応答係留水温センサー(SBE-56)を用いた調査を夏季及び冬季に複数回実施した.また湖内に水温計及び流速計を搭載した係留観測装置を7台設置し,湖水の流動・密度構造の連続的な変化を計測した.主要な業績として,混合状態によってコントロールされる底層の酸素分布(Masunaga and Komuro, 2020)や湖内の成層と風応力が形成する複雑な密度構造と混合状態を明らかにした(増永ら2019).特に混合状態によってコントロールされる酸素の分布に関する実績では,湖面からの加熱・冷却に加え,湖底における熱収支が重要であることを初めて明らかにしたもので顕著な実績と言える.また,これらの投稿論文にまとめられた成果に加え,浅水域における乱流強度測定法の開発,湖水湖底間の熱収支の定量化手法,貧酸素水塊が影響する湖底からの栄養塩の溶出量の測定を行い,物理・化学を統合した研究を行った.具体的には,高速応答係留水温センターを用い湖内の渦拡散係数を推定することに成功し,混合状態を定量化した.湖水と湖底間の熱収支(顕熱)には,海洋や湖沼では考慮されることがなかった安定性(混合状態)を熱収支計算に導入し,浅い湖水の熱収支解明の基礎となる研究成果をあげている.また水質・化学分析との統合では,貧酸素水塊発生時に顕著な栄養塩の溶出イベントが短時間(数時間)で起こることを直接湖内で観測した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで浅い湖では実施例の少ない物理構造と栄養塩分布の詳細な観測を実施し,観測を成功させた.観測データから,物理及び栄養塩(化学)の時間・空間変化を詳細に捉えることに成功し富栄養化が進行する湖における有益な知見を多数取得した.観測データをもとにチューニングを行い霞ヶ浦の物理構造を精度よく再現する数値モデルを開発した.また観測・解析と並行し学術論文も複数執筆し,順調な進捗状況と言える.また,茨城県と国土交通省と連携をし共同調査,データや知見の共有をすることで,大学での観測,解析技術や知見を自治体や国に提供し社会還元的な責務も十分に果たしている.
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今後の研究の推進方策 |
2019年度の高頻度な観測から,想定以上の小さな時空間スケールで(数中m,数時間)で湖水の循環の構造と栄養塩分布の変化が起きていることが明らかとなった.これらのことを踏まえ,2020年度は貧酸素水発生による栄養塩の溶出が想定される夏季に24から48時間の集中連続観測を実施し,短時間に高頻度(10分程度の時間解像度)で乱流強度計測を実施し,より詳細な物理・化学メカニズムの解明を行う.令和元年度の調査は主に北浦を対象としていたが,湖の地形が影響する物理現象を調査するために北浦に隣接する西浦においても実地観測を実施する.また,湖底から湖水への栄養塩溶出の詳細な動態を解明するために実験室において水槽実験を行う予定である.数値計算では,霞ヶ浦(北浦)に加え,西浦や利根川等の接続する領域も考慮したより広領域のモデルの開発に着手する.引き続き茨城県と国土交通省と連携し研究を実施し,研究の推進をする.
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次年度使用額が生じた理由 |
観測に必要なセンサー類の取得について精査を行った結果,当初の計画より安価なセンサーを取得することに成功し,使用額に差が生じた.この差額分を次年度のセンサーの保守,消耗品の購入に当てることでより円滑な観測調査・研究を実施できると考えている.
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