本研究では、森林生態系において、土壌微生物の群集組成や多様性と炭素・窒素添加による有機物分解促進効果(プライミング効果)の関係を解明し、土壌炭素量を増加させるための森林管理法を考案することを目的とする。具体的には、近年急速に発展してきた同位体トレーサー法と分子生物学的手法を応用し、森林土壌において、菌根菌タイプ(外生菌根菌とアーバスキュラー菌根菌)の違いや土壌特性の違いが、微生物群集組成とプライミング効果に与える影響を解明する。 これまで、菌根菌タイプの違いは、微生物群集組成や多様性に大きく影響を与えるが、プライミング効果には影響しないことが分かった。そこで、土壌養分とプライミング効果の関係を調べた。その結果、リンが欠乏する熱帯林土壌では、リンマイニングによるプライミング効果が、窒素が欠乏する温帯林土壌では、窒素マイニングによるプライミング効果が起こることが解明された。さらに、日本の強酸性土壌ではプライミング効果が抑制されることが分かった。基質添加後の微生物群集組成を解析することで、プライミング効果に関わる細菌・真菌群集組成や機能予測解析による機能遺伝子の同定を試みたが、解明できなかった。つまり、プライミング効果は、特定の炭素分解機能を持つ微生物によるのではなく、一般的な炭素分解機能を持つ多くの微生物によって引き起こされることが推察された。
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