研究課題
化石燃料の燃焼から多く排出される黒い微粒子、ススは強い光吸収性を有するため、大気加熱効果や、積雪に含まれた際の雪解けの加速による地球温暖化への影響が懸念されている。本研究は、スス粒子の大気中での寿命に関わる粒子表面の状態(水との接触角や微量付着物の存在)を調査し、その変化要因と、二次生成物質の付着過程との関係性を明らかにすることを目的としている。非吸湿性粒子の臨界過飽和度が粒子の表面状態に対して敏感に異なることを利用し、雲凝結核(CCN)計数器と凝結核(CN)計数器を用いた表面状態別粒子個数喉測定法を考案した。2019年12月から2020年1月に、東京理科大学神楽坂キャンパスで都市大気観測を行った。観測では、CCN/CN測定に加えて透過型電子顕微鏡による観察のための試料を採取した。CCN/CN測定から、ラッシュアワー時の非吸湿性粒子の多くは、微量な水溶性物質を既に有していることが示された。透過型電子顕微鏡を用いた元素分析と水透析法から、燃料に含まれるNaやKが起因と考えられる水溶性の微量な付着物がスス表面に存在することを示した。さらに、このような付着物を大きな硫酸塩が覆ったスス粒子が観られたことから、既存の微量付着物がスス表面上での二次生成物質の成長をサポートしている可能性が示唆された。一方、低い割合ではあるが、CCN/CN測定では、疎水性に近い非吸湿性粒子も検出された。また電子顕微鏡観察でも水溶性付着物の検出されないスス粒子も一部観られた。このようなスス粒子は、大気中での変質が進みにくい可能性がある。本研究での結果は、ススは排出時から、大気中で変質し易く大気から除かれやすい付着物を持つもの、および変質し難く長寿命になり易い表面のものが存在することを示す。以上の成果は、今後、遠隔地のスス濃度の推定に役立つと考えられる。
すべて 2022
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Science of The Total Environment
巻: 811 ページ: 152274~152274
10.1016/j.scitotenv.2021.152274