本研究では、氷床や海洋などの地質学的記録との精密な年代対比が可能な福井県水月湖の年縞堆積物に対し、セルソーターによる花粉化石の高純度濃縮技術を用いることで、堆積物中の花粉化石の水素・酸素安定同位体比を測定し、過去15万年間の古気候変動の復元を目指す。 最終年にあたる2022年度は、年縞堆積物中の化石花粉の安定同位体比分析を行った。本研究では、セルソーターを使った抽出技術を用いるとともに、2021年度に開発したセルソーターを使用しない花粉化石濃縮技術を使用することで、幅広い環境下で堆積した化石花粉の抽出に成功した。化石花粉の安定同位体比測定には、新たに導入・立ち上げを行った安定同位体比質量分析器を使用し、114試料から水素・酸素安定同位体比を得ることができた。得られた化石花粉の安定同位体比は、鍾乳石の酸素安定同位体比などと同調的な変動が見られた。また、化石花粉の安定同位体比変動を解釈するために、現生花粉や雨水の安定同位体比分析も行った。現生花粉の安定同位体比分析にあたって、新たに化石化処理を開発し、それを用いて安定同位体比の分析を行った。分析では、前年度までに収集したスギ花粉を中心に使用し、64試料から安定同位体比を得ることができた。現生花粉の安定同位体比は日本海側と太平洋側で異なる傾向が認められ、気候に応答して変化することが強く示唆された。 これらの結果から、化石花粉の安定同位体比は、陸域の古気候復元に有用であることが確認された一方、種によっては同位体比の変動傾向が異なるなど、その定量的な解釈には留意が必要なことも明らかとなった。
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