研究課題
氷河暗色化拡大の将来予測を行うためには,氷床コアを用いて今後,暗色域への供給が予想される鉱物の種類 ,成分,起源とその時間変化を明らかにすることが重要となる.しかし,ダスト濃度が低い間氷期の氷は分析が困難なため,ほとんど研究が行われていないことが問題であった.本研究では,グリーンランド氷床北東部で掘削されたEGRIPアイスコアに含まれる過去100年分の鉱物ダストの走査型電子顕微鏡観察を行い,その形態と組成の時間変化について明らかにした.さらに,昨年度分析を行った北西部のSIGMA-Dアイスコアの結果と比較することで,グリーンランド氷床に飛来する鉱物の組成や起源の時空間分布をはじめて明らかにした.SIGMAコアダストは、数十年スケールでの組成変動を示し,それはグリーンランドの地表面気温の影響を受けていることが明らかになった.一方で,EGRIPコアダストはそのような大規模な時間スケールでの変動は見られず,組成も大きく異なったことから,ダストの起源や供給プロセスが両地点で大きく異なることが示唆された.EGRIPでは,SIGMAに多く供給されていた北米起源,およびローカル起源の鉱物ダストが非常に少なく,反対にアジア起源と考えられる鉱物の割合が多かったことから,内陸の高高度に位置するEGRIPサイトには主に遠方由来のダストが飛来している可能性がある.この結果はトラジェクトリ解析からも支持された.このような鉱物組成の違いは,それぞれの氷床末端に繁殖する雪氷藻類への栄養塩供給やさらには暗色化拡大メカニズムにも大きく影響することが予想され,暗色化拡大メカニズム解明に向けた新たな知見を得た.SIGMAコアの分析結果は,Climate of the Past誌に発表した.
3: やや遅れている
当初の計画では,グリーランドの氷河上で採取されたクリオコナイト中の鉱物ダストと表面融解水の分析を進めている予定であったが,COVID-19の影響や出産,育児のために長期の出張が難しく,千葉大学や総合地球環境学研究所(京都)にて予定していた鉱物組成分析(XRD)安定同位体分析を行うことができなかった.
本年度は,まずグリーランド北西部および南西部の氷河で2012年以降に採取されたクリオコナイト中の鉱物および表面融解水の物理化学分析を行うことで,氷河表面における鉱物由来の溶存化学成分の分布と動態について明らかにする.鉱物組成に関しては.X線回折解析装置(XRD)を用いた組成分析,走査型電子顕微鏡を用いた形態観察およびエネルギー分散型X線分析検出器と電子後方散乱回折検出器を用いた表面成分分析,結晶組織分析を合わせて行うことにより,その組成を同定する.融解水の分析に関しては,分光光度計を用いた溶存化学成分の測定を行う.測定は主に微生物の栄養塩源である鉱物由来の成分について行い,得られた結果を鉱物組成と比較して鉱物ダストから水に溶け出している栄養塩成分とその起源となる鉱物の種類についてより詳しく明らかにする.鉱物の起源推定に関しては京都にある総合地球環境学研究所にてSr-Nd同位体分析を行う予定であったが,本年度は子供がまだ小さく長期の出張が難しいため,外注による分析も検討する.また,野外調査についても上記の理由およびCOVID-19の影響を考慮して本年度は実施しない.
走査型電子顕微鏡の電子銃の交換費用を計上していたが,所属研究機関の予算から交換費用が支払われたために,次年度使用額が生じた.さらに,COVID-19の影響で当初予定していたグリーンランドへの野外調査に行くことができず,またクリオコナイトの分析のための京都の研究所への出張も行わなかったことも影響した.
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Polar Data Journal
巻: - ページ: -
10.17592/001.2021031801
Climate of the Past
巻: 17 ページ: 1341~1362
10.5194/cp-17-1341-2021