研究課題/領域番号 |
19K20444
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研究機関 | 国立極地研究所 |
研究代表者 |
後藤 大輔 国立極地研究所, 研究教育系, 助教 (10626386)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 大気中酸素 / 北極域 / 大気ポテンシャル酸素 |
研究実績の概要 |
大気ポテンシャル酸素(Atmospheric Potential Oxygen: APO)は大気中O2、CO2濃度観測から導出され、大気-海洋間のO2交換によって変動するトレーサーである。近年、大気-海洋間のO2交換のメカニズムや海洋循環、海洋生物過程の理解に応用されている。太平洋、大西洋域のAPOについてはすでにその時空間変動が詳細に把握され始め、気候変動との関連性について理解が進みつつあるが、その一方で、現時点では北極域のAPOの長期変動については理解が全く進んでいない。本研究では、環境変化の著しい北極域におけるAPOの長期変動の実態を把握するとともに、その変動要因を解明することを目的として、スバールバル諸島ニーオルスンにおいて大気中CO2およびCO2濃度の系統的観測を実施している。 令和元年度においては、ニーオルスンにおいて週に一度の大気採取を実施し、採取した大気試料を分析して得られたCO2およびO2濃度を用いて、2001-2019年の19年間のAPOの変動を明らかにした。得られたAPOの時系列データにデジタルフィルタリング処理を行い、統計的に長期変動成分、季節変動成分、その他の成分を分離・抽出し、ニーオルスンにおけるAPO変動の解析に着手した。初期解析結果として、ニーオルスンにおけるAPOの経年増加率は年々の変動を伴いながら2001-2019年の平均として約-10 per meg/yrであり、平均的な季節変化は振幅約50 per megで、3月下旬、8月上旬にそれぞれ極小、極大が確認された。今後、周辺海域の海面水温(SST)変動や、エルニーニョ現象、大西洋十数年規模振動、太平洋十年規模振動といった気候因子とAPOの年々の変動を比較することで、APOの長期変動について定性的な理解を進めていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ニーオルスンにおける観測は当初予定通り実施して順調にデータを取得することができており、APOの長期変動解析に着手することができたため。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は継続的な観測の実施が不可欠であるため、引き続きニーオルスンにおける定期的な大気採取、および採取した大気試料の分析を継続実施する。ただし、新型コロナウイルス対策の影響で物資の国際輸送に支障が出ており、これまで航空便を使って定期的に行っていた大気採取用の容器の日本からニーオルスンへの輸送、および採取した大気試料の日本への返送が困難な状況がしばらく続く見込みである。そのため、大気試料の分析が遅延することが予想されるが、航空便の動向を逐一チェックしつつ、船便での輸送の可能性も検討し、日本に大気試料が届き次第速やかに分析する。また、現時点で現地に残っている大気採取容器の在庫を使って可能な限り長期的に大気採取を継続するため、大気採取頻度は従来の週一度から二週間に一度に変更して観測を実施する。これまでに得られている観測データを用いて、APOの経年的な変動、年々の変動に着目し、周辺海域のSST変動や、エルニーニョ現象、大西洋十数年規模振動、太平洋十年規模振動といった気候因子との比較解析を本格的に進め、APO変動の要因理解を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品購入金額が当初想定していた金額から変わり、その分の差額が生じた。R2年度の交付額と合わせて、消耗品等の購入費に充てる予定である。
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