研究課題
大気ポテンシャル酸素(Atmospheric Potential Oxygen : APO)は観測された大気中O2およびCO2濃度から導出され、大気-海洋間のO2交換によって変動するトレーサーとして、大気-海洋間のO2交換のメカニズムや海洋循環、海洋生物過程の理解に応用されているほか、全球炭素収支の定量評価にも利用されている。本研究では、環境変化の著しい北極域におけるAPOの十年規模の周期を持つ長期変動の実態を把握するとともに、その変動要因を解明することを目的として、スバールバル諸島ニーオルスンにおいて定期的な大気採取を行い、採取された大気試料を分析することで、大気中O2およびCO2濃度の系統的観測を実施している。令和2年度においては、物流の停止により現地で採取された大気試料を日本まで輸送できず、新たな観測データは得られていない。しかし、2001-2019年の19年間に得られたAPOの時系列データから統計的に長期変動成分、季節変動成分、その他の成分を分離・抽出し、ニーオルスンにおけるAPO変動の解析を引き続き実施した。その結果、エルーニーニョ現象の発現に同期した年々の変動を確認した。このような変動は、海水表面温度の変化に伴う、時空間的に積分された大気-海洋間のO2交換の変化を捉えているものと考えられる。今後さらに可能な限り長期間の変動を明らかにし、ニーオルスン周辺海域の海面水温(SST)変動や、大西洋十数年規模振動、太平洋十年規模振動といった気候因子とAPOの年々の変動を比較して、APOの長期変動について定性的な理解を進めていく予定である。
3: やや遅れている
新型コロナウイルス感染拡大は物資の国際輸送の停止や著しい遅延などにも影響が及んでいる。そのため、ニーオルスンで2020年1月以降に採取された大気試料が国内に戻ってきていない。早急に大気試料を日本に返送すべく、代替輸送の調整に時間を要しており、現状ではまだ2020年以降の観測データは取得できていない。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、物流の停止・著しい遅延が続いているが、2020年以降に採取された大気試料を早急に現地から日本へ返送するため、従来とは別の輸送手段・経路を調整し、日本に到着し次第試料分析を進める。また、ニーオルスンにおける定期的な大気採取は、大気採取用容器が確保できる限り継続実施する。大気試料輸送が困難な状況が改善されず、代替輸送手段も調整がつかない場合は、2020年以降のデータ取得は諦め、これまでに得られている2019年までの19年間のデータを用いて、APOの経年的な変動、年々の変動と気候因子との比較解析を本格的に進め、APO変動の要因理解を進める。
新型コロナウイルス感染拡大の影響で海外渡航が困難な状態となり、予定していた観測のための海外出張を実施することができなかったため、残額が生じた。令和3年度配分額と合わせて、観測出張旅費として使用する他、必要な消耗品等の購入費に充てる予定である。
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