研究課題
大気ポテンシャル酸素(Atmospheric Potential Oxygen : APO)は観測された大気中O2およびCO2濃度から導出され、大気-海洋間のO2交換によって変動するトレーサーとして、大気-海洋間のO2交換のメカニズムや海洋循環、海洋生物過程の理解に応用されている他、全球炭素収支の定量評価に利用されている。本研究では、環境変化の著しい北極域におけるAPOの長期変動の実態を把握するとともに、その長期的傾向から全球の炭素収支定量評価を目的として、スバールバル諸島ニーオルスンにおいて定期的な大気試料採取を実施し、大気中O2およびCO2濃度の系統的観測を継続実施した。ニーオルスンにおいて週1回採取される大気試料を分析することにより、1991-2021年のCO2および2001-2021年のO2およびAPOの長期変動を明らかにした。得られた長期の時系列データの解析を進め、APOの年々変動にENSOイベントとの相関が見られる時期が確認され、ENSOイベントの際の海水表面温度の変化による大気-海洋間のO2交換の変化の影響が反映されていることが示唆された。観測されたAPOおよびCO2の長期的な変動傾向に基づき、陸上生物圏および海洋によるCO2吸収量を20年間の平均としてそれぞれ1.6±0.9、2.6±0.7 GtC/yrと推定した。また、近年海洋によるCO2吸収量は増加傾向にあることも示された。CO2吸収量の推定誤差は依然として大きく残されているが、その大部分は海洋から大気への正味のO2放出量の不確実性によるものである。大気中アルゴン濃度は、海洋貯熱量の変化のみよって変動し、その長期変動に基づいて海洋から大気へのO2放出量の定量的な評価が期待されている。より正確なCO2吸収量定量化のためには、APOの系統的観測に加えて、大気中アルゴン濃度の系統的観測の実現が望まれる。
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