本研究の目的は、海洋のバイオマスが集中する沿岸地域の生態系が陸域からの有機物の供給によってどの程度支えられているかを評価することである。特に、高等植物と藻類のアミノ酸窒素同位体比の違いを利用することで、陸源有機物供給の重要性を高い確度で評価する。本研究により沿岸生態系への陸源有機物供給の重要性を評価することが可能となり、持続可能な水産資源の管理にも重要な知見を提供できる可能性がある。 本研究は陸域と海域の物質循環の交差点である干潟環境に焦点を当てる。令和3年度の研究計画は干潟地域から採取した生物試料のアミノ酸窒素同位体比を測定し、陸源有機物の摂食率を明らかにすることであった。そのため、昨年度までに前処理を完了させた生物試料のアミノ酸窒素安定同位体比分析と、その結果を補足するためのバルクの炭素および窒素安定同位体比分析を実施した。 分析の結果、同一の干潟環境から採取された生物試料間において炭素および窒素の安定同位体比に明瞭な差が確認された。デトリタス食者である甲殻類、多毛類、貝類の炭素安定同位体比は生物種ごとに異なる値を示した。同様に、食物連鎖に伴い値がしないアミノ酸(フェニルアラニン)の窒素安定同位体比にも差異が確認された。これらの結果は、干潟環境に生息する一部のデトリタス食者が陸源有機物を炭素および窒素源源として利用していることを示している。さらに、高次捕食者の分析結果からも同様の結果を得ることができた。これらの結果は干潟環境に供給される陸源有機物が干潟バイオマス全体の一部を支えている可能性を示唆している。 以上のように、本年度の計画はほぼ全て実施することができた。その結果から、沿岸生態系への陸源有機物供給の重要性を示すデータを公表することが可能な状態となっている。現在は分析結果と解釈に関するとりまとめを行っており、本研究計画を概ね達成することができたと言える。
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