本研究では、放射線照射による白血病発症のメカニズムの特徴を明らかにするため、放射線誘発急性骨髄性白血病(rAML)のモデルマウスであるC3Hマウスの全身、大腿骨または頭部にX線1Gyを単回照射し、造血幹細胞(HSC)が豊富で放射線誘発急性骨髄性白血病(rAML)の標的臓器であると考えられる諸造血組織(頭蓋骨、大腿骨や脾臓など)に存在するHSC数とrAML発症に必須な遺伝子変異としてSfpi1の片側欠失を有するHSCの割合を照射後1週、3週、12週および24週目をエンドポイントとして継時的に解析した。 その結果、全身照射及び部分照射では、照射1週間後に照射部位の造血組織中に存在するHSC数は減少した。減少したHSCはその後、時間経過とともに緩やかな回復傾向を示した。また、大腿骨、頭蓋骨などの造血組織中のSfpi1 欠失遺伝子を有するHSCの割合も照射後経時的に増加傾向を示した。これは放射線により誘発された末梢血細胞の減少を補うために、正常なHSCと共にX線照射によって生じたSfpi1遺伝子の欠失を有するHSCが増殖したためであると考えられる。また、大腿骨及び頭部へのX線部分照射によって照射部位である大腿骨のみならず非照射部位である脾臓中に存在するHSCの細胞動態にも影響を与え、Sfpi1遺伝子の欠失を有するHSCがわずかに増加したことが見出された。大腿骨や頭蓋骨に存在するSfpi1遺伝子欠失を有するHSCが非照射部位の脾臓に移行し蓄積される可能性が示唆された。
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