近年、放射線被ばくにより心血管疾患リスクが14-18%上昇することが報告された。これまでの研究により放射線照射は内皮細胞中の一酸化窒素(NO)合成酵素を活性化し、内皮細胞を老化させることを報告した。本研究の目的は、血管内皮細胞における放射線誘導性NOの細胞老化機構の解明であり、2019年度は放射線誘導性NOによるDNA損傷応答および老化関連遺伝子発現の変化と転写因子が見出されたため、2020年度は脂肪酸合成酵素(FASN)に着目し、放射線による細胞老化への関与を検討した。血管内皮細胞に放射線を照射するとFASNをはじめとした脂肪酸合成酵素の遺伝子発現およびタンパク質発現が減少した。NO合成酵素阻害剤処理は遺伝子発現の減少を抑制した。また、放射線照射後にFASNが産生するパルミチン酸を処理したところ、細胞老化が抑制された。2021年度においては、マウス全身被ばくモデルを用いた検討を実施した。放射線照射によりマウス大動脈の血管内皮細胞の細胞老化を誘導した。また、マウスへのパルミチン酸および一酸化窒素合成酵素阻害剤の投与は血管内皮の細胞老化を抑制した。 以上から、放射線による血管内皮細胞の老化機構には脂肪酸合成経路が関与することがin vitroおよびin vivoで示唆された。
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