研究課題/領域番号 |
19K20454
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
鈴木 健之 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学総合研究所 放射線影響研究部, 博士研究員(任常) (20726442)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 融合遺伝子 / 中性子線 / 肺がん |
研究実績の概要 |
これまでに研究部で行われたマウスの大規模照射実験のうち、ガンマ線、中性子線の照射線量、性別毎に生じた肺がんの総数を洗い出した。見つかった各肺がんサンプルはヘマトキシリン・エオジン染色像の病理医の診断に基づき腺癌、腺腫の判別を行った。その後、性別、線量、生存日数、肺がんの有無、肺がんの形態に応じてデータセットを作成し、肺癌発生のリスクをハザード比として算出し、線量毎のハザード比に基づき線量・効果関係を導出した。そしてガンマ線の線量・効果関係を参照して中性子線の生物学的効果比(RBE)を算出した。 本研究のマウスデータに基づく中性子線のRBEの算出は、当該線種に被ばくするリスクの高い宇宙飛行士や、放射線医療分野での二次被ばくによる発がんリスクを評価するために必要なデータとなる。当該年度の解析結果は将来に向かって展開される宇宙開発に、そして副作用の少ない今後の放射線治療の質を高める為のデータとして極めて重要である。 今後は、ヘマトキシリン・エオジン染色像から判別できる病理組織学的な特徴、かつ前年度作成したデータセットに基づき、生存日数の短縮に関わるような悪性度の高いと考えられるサンプルを選別する。RNASeqを用いて、放射線によって生じると考えられる融合遺伝子の網羅的な探索をする。シーケンス解析により、中性子線誘発肺がんが生じる特異的な配列を見出し、かつ遺伝子レベルで生じる特徴的な変異を明らかにすることが目的である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究において解析に供するサンプルはこれまでの照射実験により採取出来ている。 研究計画書の記載の通り、昨年度は1Gy以外の線量(0.05, 0.1, 0.2, 0.5Gy)を照射したマウスのデータにも注目し、性別、線量、生存日数、肺がんの有無、肺がんの形態に応じたデータセットを作成した。肺癌の形態については病理医の診断を経て、腺癌、腺腫の判別を行っている。以上のデータを元に、肺癌発生のリスクをハザード比として算出し、線量毎のハザード比に基づき線量・効果関係を導出した。同様の解析をガンマ線でも行い、ガンマ線を参照値として生物学的効果比(RBE)を算出するところまで進めることができている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の方策としては、病理医の診断を元に選別した肺癌のRNASeqを行うことで融合遺伝子の探索をする。予備的なデータとしては他の線種によって生じる肺癌と中性子線によって生じたものとは、病理組織学的な違い(核内構造の変化)が見出されている。融合遺伝子が生じやすい配列パターンを見出す事で中性子線照射によって生じた肺癌の特徴を遺伝子レベルで明らかにすることが目的である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該年度は、過去の大規模照射実験において回収したサンプルの病理診断を行うための試薬の購入、並びに当該計画の成果報告と関連研究の情報収集を兼ねた学会参加費として大部分を支出した。しかし、病理診断を行う為の解析用試薬は研究室ストック分もあったため当初の購入予定額よりも少なく研究計画を進めることができた。そして申請書の記載の通り、本年度の実施計画は放射線誘発肺がんの生物学的効果比の算出であり、大部分の時間をその解析ないし分析に充てため、シーケンス解析試薬の購入は一部にとどまった。結果、当該年度の所要額(A)-当該年度の実支出額(B)の差額として123,921円が生じることとなった。
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