我々はこれまでに様々な線種を用いた大規模なマウスの照射実験を行っており、この実験にて得られたマウス肺がんサンプルを多数保管している。本研究ではこのうち、自然発生した肺がんならびに、ガンマ線、炭素線、中性子線照射によって生じた肺がんについて病理診断を行い、腺癌、腺腫の判別を行った。その後、性別、線量、生存日数、肺がんの有無、肺がんの形態 に応じてデータセットを作成し、肺癌発生のリスクをハザード比として算出し、線量毎のハザード比に基づき線量・効果関係を導出した。そしてガンマ線の線量・効果関係を参照して中性子線の生物学的効果比(RBE)を算出した。 さらに本研究では、自然発生した肺がんならびに、ガンマ線、炭素線、中性子線照射によって生じた肺がんの中でも極めて悪性度の高い肺腺癌を選別し、これらのサンプルへのRNAシーケンス解析をもって融合遺伝子の探索を行った。解析においては正常組織の部分をできる限り少なくして、癌病巣からの純度を確保する必要があったため、マイクロダイセクション法により、HE染色後の病理スライドから、癌の病巣を切り抜いた上で抽出したRNAを用いることにした。RNAシーケンス解析の結果、放射線誘発癌における多数の融合遺伝子の候補をあげることが出来た。今後は、候補として上がってきた融合遺伝子のリストから、実際に遺伝子として機能しているものを選別し、それらの遺伝子の結合配列の特徴を捉えることとする。そして実際に、肺がんの増殖にどのように関与しているか、などの機能的な特徴を捉えるための解析を進めていく予定である。
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