研究課題/領域番号 |
19K20455
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研究機関 | 福島県立医科大学 |
研究代表者 |
工藤 健一 福島県立医科大学, 医学部, 助教 (00805799)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 放射線 / 放射線応答 / DNA損傷 / 幹細胞 / オルガノイド / 乳腺 |
研究実績の概要 |
本課題はヒト乳腺の放射線応答解析をするため、in vitro実験のツールとしての乳腺オルガノイドを開発することを目的とする。前年度では、7週齢前後のSprague Dawleyラット雌から採取した乳腺基底細胞(CD49++, CD24+)をセルソーティングにより取得し、これをコラーゲンゲル内に包埋して三次元培養することで乳腺組織に見られる枝分かれ構造を持ったオルガノイドの発生を確認した。今年度はヒト乳腺上皮細胞(ThermoFisher)を購入し、ラット乳腺基底細胞と同様に三次元培養して、最終的な目標であるヒト乳腺オルガノイドの作成に着手した。まず購入したヒト乳腺上皮細胞はフローサイトメトリーおよび免疫染色解析の結果、乳腺基底細胞と同様の性質を示すことがわかった。また、コラーゲンゲル三次元培養によりSDラットと同様の枝分かれ構造をもつオルガノイドを発生することが確認された。このオルガノイドは管腔構造を有することがわかったが、基底・内腔細胞の二層構造を確認することはできなかった。免疫蛍光染色により詳細な解析を行ったところ、乳腺基底細胞のホールマークであるp63タンパクが発現する領域と発現しない領域があることがわかった。p63タンパクは分化と関連しており、基底細胞から内腔細胞に分化する過程で減衰する(Centonze et al, Nature, 2020)。そのため作成したヒト乳腺オルガノイドは管腔構造を有すると同時に基底細胞から内腔細胞への分化が起こっているものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度から現職に移行し、実験準備期間が発生したが、申請書の内容とほぼ相違なく実験を進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
仮にヒト乳腺オルガノイドが乳腺組織と同様の放射線応答を示すならば、オルガノイド中の基底細胞と内腔細胞では反対の性質を示す反応が見られるはずである(Kudo et al, Radiat Res, 2020)。すなわち、γ線4Gy照射に対して内腔細胞ではγH2AXが顕著に出現し、アポトーシス頻度が増加するのに対し、基底細胞はγH2AXが比較的少なく、アポトーシス頻度の増加も小さい。これに関して、病理組織標本でp63タンパク陽性細胞と陰性細胞に同様の結果が見出されている。よって、p63タンパクは分化マーカーだけでなく、発見当時から言われているp53アンタゴニストとしての性質を有し、細胞の放射線応答を阻害している可能性がある。最終年度はヒト乳腺オルガノイドに放射線照射を行い、このオルガノイド中に発生した基底・内腔細胞の放射線応答をp63タンパクの発現とその波及を中心に解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
全国および海外で開催される学会やセミナーへの参加するための旅費を計上していたが、今年度はコロナ禍で出張がなかったため旅費支出が0となり、次年度使用額が発生した。
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