農作物に対するオゾンの悪影響が懸念されていることから、本研究では、オゾンの影響プロセスを組み込んだ植物成長モデルを開発し、日本の農作物の収量に対する現状濃度のオゾンの影響を評価することを目的としている。初年度は、山梨大学甲府キャンパス圃場に設置したオープントップチャンバーを用いて、複数回にわたってコマツナを育成した。まず、純光合成速度、葉数・葉面積および器官別バイオマスを定期的に測定し、最大カルボキシル化速度や最大電子伝達速度などの光合成速度の計算に必要なパラメータ、葉数・葉面積および炭素分配の季節変化を解析して、植物成長モデルの開発を行った。その光合成プロセスにオゾンの影響を導入するため、コマツナに対するオゾン曝露試験を実施した。その結果、最大カルボキシル化速度および最大電子伝達速度がオゾンによって低下した。また、これはオゾンの積算曝露量よりも気孔を介した葉のオゾン吸収量に比例して低下することが明らかになった。一方、複数回にわたる栽培実験を行うことで、栽培時期・環境によってオゾン吸収量と光合成活性パラメータとの回帰直線の傾き(オゾン吸収量あたりの光合成活性の低下率)が異なることも明らかになった。葉内ではオゾンが一部解毒されることから、解毒能力が栽培環境によって異なっていたことが考えられた。そこで、解毒能力の指標として総光合成速度を用いたオゾン吸収量と光合成活性パラメータとの関係を線形回帰した。その結果、解毒能力を考慮した場合の回帰直線の傾きは栽培環境によらず概ね一定であることが明らかになった。以上のことから、この線形関係を植物成長モデルに組み込むことで、栽培環境に依存せずオゾンによる光合成速度の低下を再現できると考えられた。
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