本研究では,「土壌を起源とする煙霧の発生条件」「煙霧と土壌残渣に存在する多環芳香族炭化水素(PAHs)の種類と濃度」「PAHsの起源となる土壌有機成分」「煙霧と加熱残渣の生態毒性」を明らかにする.本年度はインドネシアで採取した未火災地の熱帯泥炭を実験室内で異なる温度で加熱し,生成する煙霧粒子量とPAHsの濃度・組成を分析した.また,煙霧粒子が有する毒性をPC12細胞(ラット副腎髄質褐色細胞腫)を用いた試験から評価した.さらに泥炭火災は,一般的な地表火に加え,地下の泥炭が燃える地中火が起こりやすい傾向がある.これに着目し,酸化的,還元的雰囲気下で加熱した試料の比較も行った. 実験は管状炉に通した石英管内で泥炭を標準空気または窒素ガスを流しながら200~800℃で1時間加熱した.発生した煙霧粒子量をガラス繊維ろ紙で捕集し,重量を測定した.その結果,300℃以下では煙霧はほとんど生成しないことが分かった.窒素ガス下で生成する煙霧粒子の量は,標準空気と比較して400℃以上の加熱によって1.3~2.2倍に増加した.異なる雰囲気下において400℃で加熱した泥炭から発生した煙霧粒子中のPAHs濃度・組成を分析した.その結果,煙霧粒子に含まれるPAHsの95%以上がフルオレンやフェナントレンといった3環のPAHsだった.また,窒素ガス下で加熱しても,PAHs 濃度や組成は標準空気下で行った結果と比べてほとんど変わらなかった.これは,地表火と地中火が共に生じる泥炭火災では煙霧による環境リスクが他の森林火災に比べて高い可能性を示唆している.煙霧粒子の水抽出物をPC12細胞に暴露させ24時間後の生存率をMTTアッセイから評価した.その結果,煙霧粒子の水抽出物はPC12細胞に対して毒性を有することが明らかとなった.
|