研究課題/領域番号 |
19K20470
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研究機関 | 金沢大学 |
研究代表者 |
花本 征也 金沢大学, 環境保全センター, 講師 (10727580)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 動物用医薬品 / 畜産排水 / 河川調査 / 濃度予測 / モデル検証 / 家畜頭数 / サルファ剤 / リンコマイシン |
研究実績の概要 |
畜産地域では動物用医薬品による水環境汚染の緩和が喫緊の課題となっている。欧米と日本では家畜糞尿の管理方式が異なっており、動物用医薬品の水圏への主な排出源は、「欧米」では家畜糞尿が施用された農地/牧草地や牛等の放牧場、「日本」では畜産場の排水処理施設であると考えられる。しかし、当該分野の研究は「欧米」で先進的に行われており、畜産排水処理施設を考慮した動物用医薬品の濃度予測モデルは存在しない。このような背景の下、本研究では、畜産排水処理施設を考慮した動物用医薬品の濃度予測モデルの構築と検証を目的とした。本年度の研究概要を以下に記す。 ・集水域において養豚業が盛んな大淀川の樋渡橋(宮崎県)、肝属川の高良橋(鹿児島県)、串良川の豊栄橋(鹿児島県)を対象とし、2019年8月~2020年3月の期間に月1~2回の頻度で河川水を採水した。採水は雨の影響をほとんど受けていないと考えられる日に実施した。河川流下過程において保存性が高いことが報告されている動物用医薬品3物質(スルファモノメトキシン:SMM、スルファメトキサゾール:SMX、リンコマイシン:LM)に対して、固相抽出・LC/MS/MS・サロゲート法による濃度定量を行い、測定濃度に河川流量を乗じて河川負荷量を算出した。 ・対象医薬品の使用量・排泄率・活性汚泥除去率と、対象河川流域における人口・家畜頭数・糞尿排水処理割合を考慮して河川負荷量を予測した。 ・SMXとLMは、河川負荷量の予測値が実測値(調査期間の平均値)の1/2~2倍の範囲内に含まれており、高い精度で予測可能であることが示唆された。一方で、SMMは予測値が実測値の0.40~6.7倍であった。ただし、SMMについても対象3河川の合計負荷量では、予測値が実測値の1/2~2倍の範囲内に含まれていたことから、SMMの予測精度の低下要因には、使用原単位の地域差が考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
国内でも有数の畜産地域である宮崎県都城市・鹿児島県鹿屋市を流下する大淀川・肝属川・串良川において約半年間の現地調査を実施し、動物用医薬品の存在実態とその経時変化を把握した。また、動物用医薬品の濃度予測に必要な知見を農林水産省・厚生労働省のホームページや査読論文等から収集し、現地調査結果と比較することで、動物用医薬品の河川負荷量の予測可能性を評価した。このように、本研究で掲げている「国内河川では、動物用医薬品の水圏への排出源を畜産排水処理施設に限定しても、河川水中濃度が概ね予測可能である」という仮説の検証が着実に進んでいるため、本研究はおおむね順調に進展していると言える。ただし、本研究の仮説を立証するためには、前述の河川調査を年間を通して実施すると共に、他の国内畜産地域を流下する河川へのモデル適用性も検証する必要がある。また、家畜堆肥施用直後の雨天時にも河川調査を行うことで、農地由来の動物用医薬品の負荷を観測し、本研究の仮説立証のための裏付けデータを得ることが望ましい。本年度の研究から推察された原単位の地域差についても裏付けデータを得ることが望まれる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は以下の研究内容を予定している。 ・本年度に調査対象とした大淀川、肝属川、串良川において現地調査を継続し、河川負荷量の年平均値と季節変動を明らかにする。また、対象とした動物用医薬品3物質は、淀川水系の河川では保存性が高いことが報告されているが、本研究の対象河川における保存性を評価するため、対象河川の河川水を用いた生分解・光分解・吸着試験を実施する。 ・国内の他の畜産地域を流下する河川として、群馬県を流下する利根川、栃木県を流下する那珂川、愛知県を流下する庄内川・矢作川を対象に河川調査と河川負荷量予測を行い、モデル適用性を評価する。 ・家畜堆肥が農地に施用される10-12月頃を中心に、上記河川において雨天時に河川調査を実施し、畜産排水由来の負荷(晴天時の負荷量)に対して、農地由来の負荷([雨天時の負荷量]-[晴天時の負荷量])がどの程度の寄与であるのかを評価する。 ・河川において保存性の低い動物用医薬品に関しても、オキシテトラサイクリン等の使用量の多い物質は分析対象に含め、河川減衰性も考慮してモデル適用性を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
市町村単位の家畜頭数は公開されているものの、個別の畜産場が飼養する家畜頭数と畜産場の位置情報は公開されていないため、流域内における家畜頭数の空間分布の情報は得られず、河川における滞留時間(流下時間)を精度高く予測することが出来ない。従って、現状では河川流下過程における動物用医薬品の減衰量は精度高く予測することが出来ず、減衰性の高い物質については予測精度が低下することが想定された。このような状況から、本年度は対象物質を河川において保存性の高い3物質に限定して研究を実施したため、次年度使用額が生じた。次年度は、オキシテトラサイクリン等の河川減衰性の高い動物用医薬品も含めた国内使用量の上位10物質程度に対象物質を拡張させ、河川減衰性も概算して考慮した上でモデル適用性を検証する。従って、次年度使用額については、主に動物用医薬品の標準試薬に対して使用する予定である。
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