研究課題/領域番号 |
19K20472
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
中田 北斗 北海道大学, 獣医学研究院, 学術研究員 (60815273)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 鉛中毒 / 土壌汚染 / モリンガ / 治療 / 環境修復 |
研究実績の概要 |
本研究では、世界各地に自生し栽培が容易な植物モリンガを用いた、安価な鉛中毒の治療法および鉛汚染環境の修復手法の開発を目的とした。 SDラット(7週齢、オス)にモリンガの葉粉末、葉抽出液、種子粉末をそれぞれ低・高容量で経口投与し、モリンガ投与が鉛の蓄積および毒性に与える影響を検証した。鉛は酢酸鉛水溶液を自由飲水による与えた。モリンガ投与による血液および臓器における鉛蓄積量の変化は認められなかった一方、種子の投与によりカルシウムおよびリン濃度は骨で有意に上昇し、糞便で有意に低下した。このことにより、モリンガが骨代謝等に影響している可能性が示唆された。また、血液生化学検査による肝臓・腎臓機能スクリーニングにおいて、鉛暴露による血漿アルブミンの減少がモリンガ葉の投与により軽減されるなど、一定の成果を得た。しかし、貧血の指標となるアミノレブリン酸脱水素酵素の活性測定では、モリンガによる有効な治療効果は認められなかった。鉛暴露による酸化ストレスの上昇については、遺伝子DNAにおける指標として8-OHdG、タンパク質の指標としてカルボニル化タンパク質を指標とし、後者においてモリンガ葉の投与が酸化ストレスの軽減作用を示すことを明らかとした。 また、モリンガを用いた鉛汚染土壌の環境修復手法の開発に向けて、ザンビア共和国カブエ鉛鉱床地域から採取した鉛汚染土壌とモリンガの種子および樹皮を混合し、カラム試験に供した。カラム上部から通水し、カラム下部から得られる浸出水中の鉛濃度を指標としたところ、樹皮については有効なデータが得られなかった一方、種子を混合した場合では一定の鉛濃度の減少が見られた。混合やカラムへの重点方法には改良の余地があり、条件を変更して再度検証する必要があると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ラットへの暴露実験で得られた動物試料を用いた実験およびデータ解析を重点的に進めた。ラットの臓器等の試料を用い、予定していた毒性評価試験に加えて、アミノレブリン酸脱水素酵素活性の評価や酸化ストレスへの影響評価を追加的に実施し、鉛の種々の毒性を網羅的に評価することができた。また、ICP-MSの特性を生かし、鉛のみならず多元素の定量を行い、カルシウムやリンなどの必須元素への影響を評価することができた。重金属結合蛋白であるMT-1, 2の発現量の定量などは実際のデータを得るには至らなかったが、手法は既に構築済みのため、来年度に実施が可能である。 汚染土壌の環境修復手法については、初年度としては良好な基礎データが得られた。必要な条件検討を行い、来年度に本試験の実施およびデータ取得が実施と考えられる。 以上より、本研究課題はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
重金属結合タンパクであるMT-1, 2やDNAメチル化に関わるDNMTの発現量の定量をラット試料を用いて行い、遺伝子レベルでの影響を進める。汚染土壌を用いたカラム試験は条件検討を終了し、本試験の実施およびデータ取得を行う。また、汚染土壌へのモリンガの植栽を行い、生育度や各部位への鉛蓄積量を解明する。
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