研究実績の概要 |
白金(Pt)に代表される白金族金属(PGMs)は、高い化学耐性や触媒能から、特に自動車用触媒用向けの利用が多く、自動車1台あたり数 gのPGMsが利用される。一方、一般的な鉱石の品位は数 ppm程度のため、使用済み触媒からのリサイクルが重要とされ、実際に広く操業されている。既存のプロセスでは、王水や塩素(Cl2)を吹き込んだ塩酸(HCl)で溶出させる湿式法や、溶融した鉄(Fe)や銅(Cu)に吸収させて濃縮する乾式法が主に利用されているが、いずれも廃液や高温での処理による環境負荷の大きさや、施設立地の制限などが問題とされる。最近では溶融塩を用いた手法も提案され、直接塩化できる「固体王水」という概念も提唱されているが、溶融塩自体の危険性などに起因する操業上の問題は残る。 以上から、本研究では安全かつ環境負荷の小さい新たな「固体王水」として、塩化鉄(III)(FeCl3)と塩化カリウム(KCl)、または塩化ナトリウム(NaCl)を用いたPGMsの回収プロセスを構築することを目的に研究を行った。これまでに、自動車用触媒に主に用いられるPt, Pdについては、相互分離・回収プロセスを確立し、ロジウム(Rh)については溶解と化合物としての回収を確認した。 最終年度は、上記手法の改善に加え、半導体製造時のるつぼに利用されるイリジウム(Ir)を対象とした回収プロセスの構築を実施した。その結果、PtとPdの相互分離・回収では特にPd回収率の大幅な改善が確認された。Rhについてはエタノールによるリーチングの導入により、Feと完全に分離できることが確認された。Irについては、他のPGMsよりも速度は大幅に低いものの固体王水による溶解が可能であり、また溶解後の回収が可能であることが確認された。以上から、固体王水による環境調和型リサイクルプロセスは、複数のPGMsに対して適用できる可能性が示唆された。
|