研究課題/領域番号 |
19K20488
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
柚原 剛 東北大学, 生命科学研究科, 学術研究員 (90772369)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 個体群存続機構 / 集団遺伝構造 / 半陸生ガニ / 遺伝的分化 / 震災復興工事 |
研究実績の概要 |
東北地方太平洋沿岸域では,複数種の底生動物で地域特有の遺伝子型が報告されており,日本列島での沿岸生物個体群の遺伝構造を考える上で重要な地域と言える.日本列島に生息する代表的な半陸生ガニであるクロベンケイガニ,アカテガニ,アシハラガニは,陸域で生活し,産卵は海域で行うため,個体群維持には陸域と海岸が連続した環境を必要とする.特に,東日本大震災後の復興事業に伴う護岸工事等で陸域と海域が分断されつつある現在,半陸生ガニの集団遺伝構造の解析は喫緊の課題である.そこで本研究では,東北地方太平洋沿岸域を含めた日本列島の半陸生ガニ3種を対象に遺伝的な分集団化や局所集団の孤立の可能性を明らかにすることを目的した. 2年目となる今年度は,昨年度採集できなかった東北地方太平洋地域(岩手県宮古市津軽石川,陸前高田市古川沼)の試料を追加し,合計日本列島沿岸域の46地点となった.そのうちクロベンケイガニでは18地点168個体,アカテガニでは23地点214個体,アシハラガニでは16地点157個体を用いて,MIG-seq法を用いたゲノムワイドSNP解析を行った.得られたSNPを用いてSTRUCTURE解析と主成分分析により日本列島における各種の集団遺伝構造を解析した. クロベンケイガニでは得られた1249座のSNPを用いた集団遺伝構造解析により,太平洋沿岸地域の岩手県古川沼から千葉県夷隅川までの5地点の局所集団と,その他の日本列島沿岸域13局所集団とで遺伝的分化が示された.アカテガニおよびアシハラガニでは,それぞれ得られた583座,1025座のSNPより集団遺伝構造解析を行ったが,日本列島内において地理的な遺伝的分化はみられなかった.本研究では,半陸生ガニ3種の中でクロベンケイガニのみが,東北地方から房総半島にかけての太平洋沿岸地域集団と他地域集団とで遺伝子交流の制限が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目の課題は,昨年採集できなかった岩手県北部から青森県南部の試料を採集することであった.新型コロナウイルス感染拡大の影響で,カニ類活動期に出張制限がかかり,青森県南部には訪問できなかったが,岩手県沿岸域の宮古湾津軽石川,山田湾織笠川,広田湾古川沼で採集できた.また本年度はMIG-seq法を用いたゲノムワイドSNP解析を行うことができた(クロベンケイガニでは18地点168個体,アカテガニでは23地点214個体,アシハラガニでは16地点157個体).
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今後の研究の推進方策 |
研究最終年度ということで,取りまとめに向けた分析・解析を進める.取りまとめに必要と考えられる試料については,本年度もできれば取得を進める.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大の影響で,カニ類活動期に出張制限がかかり,旅費が執行できなかった.次年度は学会発表など成果発表,および追加実験・解析などに使用する予定である.
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