研究課題/領域番号 |
19K20491
|
研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
境 優 中央大学, 理工学部, 助教 (10636343)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 湧水 / 河川生態系 / 生物多様性 / 流況 / 底生無脊椎動物 / 魚類 / 水温 |
研究実績の概要 |
流量と水温が安定した湧水河川の生息環境が、(1)特異な生物群集をもたらすかどうか、(2)洪水時の避難場所を生物に提供するかどうかを明らかにするため、野外調査と予備調査データの解析を実施した。 (1)では、湧水支流とその周辺の非湧水支流・本流を対象に底生無脊椎動物の採集と生息環境の調査を行った。その結果、洪水による土砂流亡が少ない湧水支流では、他の河川と比べて河床の細粒土砂被度が高く、堆積有機物量が多かった。さらに、湧水支流では細粒土砂に潜って生活する掘潜型や堆積有機物を摂食する採集食者が多かった。また、冷涼な湧水環境を選好するイズミコエグリトビケラ属は、湧水支流でのみ確認された。以上より、湧水河川の砂泥に富んだ河床や安定した水温は特異な生物群集の成立に寄与していると考えられた。 (2)では、降雨前後の複数回で湧水支流の魚類の個体数密度の変化を追跡した。計7種が採捕され、サケ・ヤマメ・スナヤツメ・ウグイ属の1種は降雨前後にかけて上に凸の応答を示した一方、フクドジョウ・エゾイワナ・ウツセミカジカは明瞭な上に凸の応答を示さなかった。前者のうちサケはすべて成熟魚、他の種はすべて未成熟魚だった。サケは洪水時に産卵遡上することが知られ、本研究における降雨後の湧水支流でのサケの個体数密度の増加は産卵遡上によるものと考えられた。一方、ヤマメやウグイ属の1種は平水時に湧水支流と非湧水本流の両方で生息しており、降雨時の個体数密度の増加は本流から湧水支流へ避難する個体の存在を示唆している。砂泥質な河床を好むスナヤツメ幼生は、平水時に湧水支流でのみ生息が確認されており、本種の降雨に対する応答は湧水支流内での限られた範囲の避難(例えば、流心から岸際)とそれに伴う採捕効率の向上を反映しているのかもしれない。以上より、湧水支流は主に移動能力の高い遊泳魚に降雨時の退避地を提供していると考えられた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
湧水河川の生態系機能として、湧水河川内に特異な生息環境と底生無脊椎動物群集が成立すること、降雨に伴う非湧水河川の洪水時に湧水支流が遊泳魚の退避地を提供している可能性を示すことができたため。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、魚類が湧水支流を実際に退避地として利用していることを示すための野外調査・試料分析を進める。さらに、季節的な調査データを蓄積し温度ストレスの観点から湧水河川の退避地としての機能を明らかにする。特に、周辺の非湧水河川と比べて湧水河川の水温が大きく異なる夏期と冬期において湧水河川の生物相や各生物種の生息密度がどのように変化するのかを定量的に示す。これにより、湧水河川の退避地としての機能を流量と水温の両方から評価することが今後可能となる。 本研究によって明らかにする湧水河川の特異な生息環境と退避地としての生態系機能を踏まえながら、研究の視野を河川ネットワークに拡張し、河川ネットワークのベータ多様性への寄与、退避地提供による群集の安定性の向上について考察する。これにより河川ネットワークスケールでの湧水河川の生態系機能を整理し、温暖化や洪水の激甚化が顕在化する変動環境下での河川生態系の保全・管理に資する知見を提供する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
研究代表者の前職での任期満了につき就職活動に費やす時間が増大し、結果として2019年度の野外調査頻度が当初予定よりも下がってしまった。また、新型コロナウイルスの影響により当初計画していた学会への参加ができなかった。そのため繰り越した予算を2020年度の旅費に利用する予定である。
|