流量・水温ともに安定した湧水河川の生息環境が、(1)特異な生物群集をもたらすかどうか、(2)洪水時や夏・冬期の温度ストレスに対する避難場所としてどう機能するのかについて野外調査と成果発表を行った。 (1)では、これまでに調査を実施してきた砕屑岩地質を流れる湧水河川に加え、火山灰地質を流れる湧水河川での生物調査を実施した。地質に応じて湧水河川の流況の安定性には違いがみられることが指摘されており、これらの調査結果から、湧水河川の流況と生物群集構造について地質を考慮した知見が得られることが今後期待できる。 (2)では、昨年度に報告した洪水時に生じる湧水河川内での種間相互作用に加え、春夏秋冬の季節的な野外調査により、温度ストレスに対する魚類の避難場所や採餌場所としての湧水河川の生態系機能を把握した。その結果、夏・冬期に湧水河川のヤマメの生息密度が高まることが明らかとなり、周辺の非湧水河川と比べ水温差が大きくなる季節に湧水河川が温度ストレスに対する避難場所になる可能性が示唆された。また、安定した流況などによりデトリタス食者の底生無脊椎動物のバイオマスが季節を通して湧水河川で非湧水河川よりも大きく、それらの無脊椎動物を魚類が捕食していることもわかった。このことから、豊富な水生餌生物を提供することにより、湧水河川が特異的な魚類の採餌場所をもたらすことも示された。このような温度ストレスに対する避難場所、採餌場所としての2つの湧水河川の生態系機能について、論文発表した。
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