農作物はシカにとって好適な餌資源であり、個体数の増加を促進する可能性が指摘されてきた。しかし、農作物の採食がシカの身体にどのような影響を与え、個体数増加に至るかは分かっていない。また、個体数の増加や農業被害の低減を図るためには、農作物に採食依存するシカ個体の捕獲等の管理が有効であると考えられるが、農作物依存個体がどのような場所に分布するかは不明である。そこで本研究では、(1)農作物への依存がシカの体サイズや妊娠率に与える影響および、(2)農作物に依存するシカ個体の空間分布傾向の解明を目的とした。 (1)については、メスの野生ニホンジカの農作物依存度と体サイズおよび繁殖に関するデータを用いて解析を行った。その結果、窒素安定同位体比(δ15N)が農作物依存度の指標として有用であることが示唆されるとともに、4歳以下の若齢個体では、骨コラーゲンδ15N値が高い個体ほど体サイズが大きくなり、その結果妊娠率も高くなる傾向がみられた。本成果を取りまとめ、国際誌に受理・掲載された論文のプレスリリースを実施した。 (2)については、捕獲されたシカ個体の捕獲位置情報と農作物依存度のデータをもとに、農作物依存個体の分布傾向について解析を行った。その結果、冬から春にかけて農地に近接して分布するメス個体ほど農作物依存度が高く、農作物を採食する可能性は農地から5-10km離れると半減することが分かった。一方オスでは明瞭な空間分布傾向は見られなかった。得られた結果を学会発表すると共に、論文に取りまとめて国際誌に投稿し、受理・掲載された。 最終年度はこれらの成果に関する日本語解説文を広報誌にて執筆する等、広報活動を行うと共に、農作物採食がシカの寿命にもたらす影響に関する検証を開始した。
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