研究課題/領域番号 |
19K20493
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
松橋 彩衣子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 植物防疫研究部門, 研究員 (20720626)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 農業生態 / 草本植生 / 雑草 / 外来種 |
研究実績の概要 |
農地・緑地等の人間の管理下にある雑草群集の形成・維持の仕組みを理解することは、現代における生態系への理解に繋がると同時に、環境管理における課題ともいえる。管理下における雑草は、独特な群集構造を形成し、時に『雑草問題』を引き起こす。こうした事例は蓄積されているものの、雑草群集の形成・維持機構への包括的理解や一般化は進んでいない。本研究は、国内における農地雑草情報を統合することで、農地管理下にある草本群集の形成・維持機構を解明することを目的とする。当該年度では、前年度までに構築・整備した農地雑草リストについて、さらに北海道・沖縄の雑草種を追加し、600種以上の雑草種の情報を整備した。全体のうち外来種は約半数を占めており、水田ではなく畑地における侵入が顕著であった。水田・畑地両方に生育可能な種も侵入が認められたが、こうした生育可能域の大きさは農地における競争力の強さには影響していなかった。原産地が熱帯の外来種ほど高緯度では出現しにくいことが明らかになった。除草剤抵抗性は在来種の方が外来種よりも多く、抵抗性の種類も異なる傾向が示された。在来種の除草剤抵抗性は特に水田において顕著であったが、外来種の場合は畑地の方が多く認められた。植物高、種子重、発芽時期、開花時期といった形質・フェノロジーの違いは、外来種と在来種で顕著な差は認められず、また、競争力の強さにも有意な影響を与えていなかった。このことから、農地雑草の侵入成功にあたり、在来種とニッチを重複する種が侵入し競争関係となる状況が示唆された。これらから、これまで統合が難しかった国内の農地雑草についての情報を整理・分析したことにより、農地雑草の形成・維持機構の包括的理解に繋がる知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度に引き続き、当該年度では、新型コロナウイルス感染症対策に係る出勤・出張制限や学会等の延期・中止により、研究補助員による労働力の減少や、解析環境の利用制限、予定していた出張(打合せ、現地調査、国際学会発表等)の見送りが生じた。特に研究補助員の新規雇用を見送ったことで、十分な労働力確保ができなかったことにより、データ整備に想定以上の時間をかけることとなった。現在も分布情報等、データ整備中の情報があり、整備後にはさらに幅広く且つ綿密な解析が予定されている。一方で、現段階で整備された種リストや機能形質情報、外来種情報の統合結果のみをみても、これまで一般化が難しかった国内の農地雑草の形成・維持の包括的理解が飛躍的に進んだことから、本研究の目標に向かって確実に推進してきたと言える。そのため、区分3と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの分析により、国内における農地雑草の形質情報や外来種の特性についての情報が整理された。現在国内において防除が難しいとされている雑草種も、古くからいる種にはない特別な形質を保有しているのではなく、近い特性を持って侵入し、競争に勝っている状況が示唆された。今回の研究では農地雑草層の全体把握を目的として雑草種そのものに着目してきたが、今後は、農地自体の特性、例えば環境、景観、栽培暦、除草体系といった、より詳細な農地環境条件に関する情報を整備して、併せて解析していくことで、より局所的な侵入・定着可能性を明らかにしていくことが期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症対応として、当初予定していた研究補助員の新規雇用を見送ったため、翌年度分として繰り越した。また当初計画していた現地視察、打合せ、及び学会発表用の旅費・参加費等を翌年度分として繰り越した。
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