研究課題/領域番号 |
19K20494
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研究機関 | 国際連合大学サステイナビリティ高等研究所 |
研究代表者 |
堀 啓子 国際連合大学サステイナビリティ高等研究所, サステイナビリティ高等研究, Research Assistant (80825787)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 社会-生態システム / シナリオ / 物語 |
研究実績の概要 |
2019年度に算出した生活の変化に関する定量的データを参照し、4つの社会-生態シナリオに応じた物語を作成した。物語の構成要素とその配列ルールを解明したストーリー・グラマー理論に則り、P1:各シナリオにおける代表的な地域と世帯の抽出、P2:埋め込む要素(シナリオの差異を)選定、P3:各要素を反映した人物設定とタイムライン設計、P4:プロットの作成、P5:テキストの作成、という手順で作成を行った。シナリオの物語化の技術に関しては、劇作家などから知見の提供を受けた。検討の結果、高校生以上を読み手の対象とした1シナリオ約2千文字のテキスト形式で、中規模都市を拠点に離れて暮らす家族の視点から、4つの社会-生態シナリオで規定される未来社会を描く物語が完成した。ベースとした社会-生態シナリオは社会のマクロな状態を表す記述によって規定されていたため、P2のプロセスでマクロな状態をミクロな視点での生活の記述に変換(具体化)する手続きが重要であることが分かった。国内の地域構造は登場人物の居住地域の選好、都市構造は住宅・流通販売・移動手段の在り方、消費様式は売買される食品・服飾品・娯楽などに変換された。他にも、自然資本への関わりや周囲の人々との関わり、エネルギー源の変化、農林業の変化、シナリオや地域ごとの医療体制の変化などの要素が物語中に盛り込まれた。物語への変換時の課題としては、現在とは異なる未来の状況を記述する際は分量とのトレードオフ問題が避けられないこと、主体となる人物の設定によっては、読み手の共感が得られにくくなるリスクが生じることなどが見いだされた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画していた4つの物語シナリオの作成を、予定通り達成できた。
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今後の研究の推進方策 |
作成した物語形式のシナリオの読み手の読了効果を調査するべく、数千人規模のWeb調査を実施する。調査回答者の半数には作成した4つの物語を、その他の回答者には物語シナリオにて描かれた将来社会像を叙述したテキスト(物語性=主体性と時間軸がないもの)を提供する。各回答者の理解度や共感度は、先行研究の物語読了効果(印象鮮明性・納得性・関心向上性・自我関与性)測定尺度を基に、本研究の目的に応じて拡張した尺度で測定する。また提供した情報に基づき、各回答者にとって望ましいシナリオの決定を求める設問を加え、提案手法による意思決定への寄与度を測定する。手法はDecisional Conflict Scale(意思決定葛藤度尺度)など、評価対象を社会的選択に拡張した独自の尺度を用いる。なお、比較実験に用いるテキストや調査票に関しては、事前にプレテストを行い、その精度を高める。結果の比較分析により統計的に本提案手法の効果を明らかにし、その有効性と共に本手法の実施手順や各プロセスの要諦、実践事例結果を、本研究の一連の成果として公表する。成果公表の手法として、各物語のウェブ上での公開(テキストやイラスト、動画などのメディアに変換のうえ)や、作成した物語を更に膨らませる参加型ワークショップなども検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は新型コロナウィルスのパンデミックにより、当初計画していたフィールド視察等が実施できず、更に対面で実施を予定していた研究会などがオンラインでの実施となったことなどが理由である。次年度使用額により、次年度の社会実験では想定より多くのサンプルを得た形での調査を実施し、また本研究の成果についてオンラインで一般の人々に公開しコミュニケーションをとれるような、Webメディアの作成を計画している。
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