研究課題/領域番号 |
19K20495
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研究機関 | 国立研究開発法人海洋研究開発機構 |
研究代表者 |
松林 順 国立研究開発法人海洋研究開発機構, 海洋機能利用部門(生物地球化学プログラム), 特別研究員(PD) (30756052)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 放射性炭素同位体比 / アイソスケープ / サケ / カツオ |
研究実績の概要 |
2019年度は、世界各地の海域で実施された水質調査(GLODAP、WOCEなど)のアーカイブデータや既存の論文等から、水深100m以内の溶存無機炭素(DIC)の放射性炭素同位体比値データを収集した。データ収集の結果、合計で7362個のデータを得ることができ、ベーリング海を除いてほぼ世界全体の海域からデータを得ることができたと考えている。 公表されている限りにおいて、ベーリング海において表層域における放射性炭素同位体比を調べた事例は見つからなかった。このため、当該海域で採取された動物プランクトンの冷凍試料およびエタノール保存試料の放射性炭素同位体比分析を行い、ベーリング海におけるアイソスケープを補完するデータの収集を行った。分析の結果、動物プランクトン試料の放射性炭素同位体比値は、周辺海域で採取されたDICの値とほぼ同じ値をしめしており、プランクトンの分析でもその海域を代表する放射性炭素同位体比を得ることができると考えられる。 さらに、放射性炭素同位体比が魚類の回遊経路推定に応用できるかどうかを確かめるため、北太平洋を回遊するサケの放射性炭素同位体比分析を実施した。サケが主に回遊する北太平洋の親潮域では、極めて放射性炭素同位体比が検出されているが、サケもすべての個体において同程度に低い放射性炭素同位体比を示していた。このため、放射性炭素同位体比のアイソスケープが、親潮域と黒潮域のように大きく同位体比が変化する海域間を移動する魚類の回遊履歴追跡に極めて有効である可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究においてもっとも難易度が高いと考えられていたのが全休スケールでのアイソスケープ作成だが、2019年度の成果からほぼすべての海域を網羅するデータを得ることができた。さらに、関連する論文が生態学におけるトップジャーナルの一つであるEcology Lettersに掲載され、世界的に注目度の高い研究内容であることを示すことにも成功した。以上のことから、本研究はおおむね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
2019年度までに得られた全世界の海洋における放射性炭素同位体比値のデータは、サンプルとなる溶存有機炭素(DIC)が採取された年代が1972年から2018年までと大きくばらついている。一方で、大気中の放射性炭素同位体比は、20世紀半ばにかけて複数回実施された大気核実験によって大きく変動しており、海洋表層においてもこのボムカーボンを海面から徐々に吸収することで、現在においても同位体比の大きな時間的変動がある。したがって、放射性炭素のアイソスケープを作成するためには、この大気核実験により排出された放射性炭素(ボムカーボン)の影響による時間的変化を補正する必要がある。 そこで、今後の研究では機械学習を使ったモデルにより海洋表層の放射性炭素同位体比の時間的変化を場所ごとにモデル化して2018年の値に統一することで、アイソスケープを作成することを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルスの流行により3月に参加予定だった学会がキャンセルされたため、若干の次年度使用額が生じた。当該繰越分は、2019年度に実施できなかった分析に係る出張費に充てる予定である。
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