研究実績の概要 |
2020年度までの研究から、世界全体における海水中の溶存無機炭素(DIC)の放射性炭素同位体比データを収集し、その時系列変化、緯度および主要海域ごとの変化を予測する機械学習モデルの構築に成功した。また、放射性炭素同位体比が顕著に異なる海域を回遊する魚種では、魚体中の放射性炭素同位体比もその回遊海域の値と一致することを示した。しかし、一般的な緯度経度を使ったモデルでは、海流などによる物理的な水塊間の連結性が考慮されておらず、例えば地峡や半島で分断されているはずの海域同士が似た環境を持つものと認識されてしまうという問題点があることが明らかになった。 そこで、2021年度の研究ではこの問題点を克服するため、海流による水塊間の連結性を考慮したグラフニューラルネットワークを用いて放射性炭素同位体比の分布予測を行うモデルの作成に取り組んだ。衛星データに基づいて予測された過去の各年・各月の海流・流速・水温・塩分のデータをSimple Ocean Data Assimilation (SODA)より入手し、地球上の海洋を等間隔で区切ったグリッドごとに各データを集計し、流向・流速に基づいて隣接するグリッド間の連結性を算出して、グラフデータを作成した。 今後の研究では、各年・各月のグリッドごとにその上空の大気中における放射性炭素同位体比を集計する。また、各グリッドにおける各種栄養塩データ(N, O, Pなど)も可能な限り収集する。これらのデータをもとに、時系列を考慮した半教師ありのグラフニューラルネットワークを構築し、月ごとの放射性炭素同位体比を予測する機械学習モデルの作成を目指す。
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