研究実績の概要 |
今年度は,広域な処理区を有する汚水処理施設である流域下水道事業を対象に,下水道利用者の時間的変動がどの程度あるのかを把握することが重要だと考えられたため,夜間人口および昼間人口の比率を推定することで実質的な利用者の数を推定した. 夜間人口および昼間人口については,それらをもとに,必ずしも行政区域に一致しない下水道の処理区域に存在する建物に着目し,建物毎の住宅用途・業務用途の床面積を算出し,国勢調査から得られる夜間人口とモバイルビッグデータから得られる推定昼間人口を建物毎に按分することで人流に応じた時間的な人口分布の再現に取り組んだ.なお,使用したモバイルビッグデータには,個人を特定する情報は含まれていない.このように算出された建物単位の推定人口を用いて,処理区毎の夜間人口および人流データをもとに(推定)昼間人口を算定し,事業ごとの利用率の実態に迫ることとした. 結果,今回対象とした関東地方における流域下水道に関しては,昼間人口に相当する非定住人口は推定夜間人口の2倍程度の人口がみられ,計画人口を上回る処理区の存在が明らかになった.都市における人々の通勤・通学などの日常的な移動が下水道の利用状況に与える影響によるもとの考えられ,特に都市間の移動が頻繁に行われる都市圏においては生活行動圏を意識した,処理区の共同化・広域化が重要であることが示唆された. また学会での研究発表によって,下水道事業に実務家の方と議論する機会が得られ,将来的な下水道事業の持続可能性の確保に向けては,下水道事業だけにとどまらず課や部署の枠を超えた合意形成・意思決定が求められる状況であることが共有された.
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