本研究課題は,国内において増加している無断伐採(盗伐および誤伐)の発生メカニズムを検討したうえで,林野行政,素材生産業界および木材業界に求められる対策を提示することを目的としている。 最終年度(2022年度)は,森林所有者の森林管理意欲および将来の管理意向の規定要因を明らかにすることを目的として,宮崎県内で森林所有規模の異なる2地域において森林所有者を対象として実施したアンケート調査の結果を取りまとめた。調査で得られた結果から,所有規模の大小と相続人の有無が森林所有者の管理意向の規定要因となっていることが明らかになるとともに,所有者が所有する森林の面積や場所などの情報の不足が将来意向を低減される要因になっていることが示された。本成果は国際誌に掲載された。また,森林所有者へのアンケート調査と無断伐採被害者への聞き取り調査から,無断伐採が発生する経緯を明らかにし,論文として公開した。また,無断伐採の発生メカニズムをさらに検討するため,刑事訴訟の判決および民事裁判における訴状といった訴訟行為に係る資料を収集し,無断伐採が発生した経緯の実態把握を行うとともに,裁判における争点を整理し,盗伐が認定されるための条件を検討した。 研究期間(2019-2022年度)を通じた主な成果は,(1)犯罪学モデルを用いた無断伐採発生メカニズムの論点整理,(2)無断伐採の発生経緯の実態把握と発生状況の定量的把握,(3)森林所有の小規模性が素材生産に与える影響,および(4)森林所有者の森林管理意欲と将来意向の規定要因の解明について明らかにしたことである。また,合法木材の流通に関する法改正や無断伐採監視システムの開発といった行政施策や,講演や寄稿を通じ林業従事者や一般市民に対に対して本研究課題の成果を提供することができた。
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