研究課題/領域番号 |
19K20513
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研究機関 | 総合地球環境学研究所 |
研究代表者 |
太田 和彦 総合地球環境学研究所, 研究部, 助教 (50782299)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 風土論 / 地域計画 / 生活圏 / 和辻哲郎 / 持続可能な社会への移行/転換 / レジリエンス / 環境倫理学 / 食農倫理学 |
研究実績の概要 |
・Thompson, P. B. (2015). From field to fork: Food ethics for everyone. Oxford University Press. の邦訳を行った(邦題『食農倫理学の長い旅:〈食べる〉のどこに倫理はあるのか』、ポール・B・トンプソン、勁草書房)。トンプソンは本書において特にフードシステムをめぐる諸問題に着目し、倫理学者が、それぞれの国や地域が抱えている問題の種類や質、利害関係者の違い、歴史的経緯、生態学的制約などを軽視し、問題の過度の単純化や抽象化を行えば、対立を悪化させかねないことを指摘している。本書の邦訳を通じて、地域計画において倫理学が果たすことが期待されている役割と陥穽についての、具体的なケーススタディを国内に紹介することができた。 ・日本土壌肥料学会2020年度大会(9月8日、オンライン)にて、「人新世における土壌をめぐるナラティブの諸相:地域のレジリエンスの向上と関連して」を報告し、比較的安定した気候のなかで創造的な未来を打ち立てることが難しいかもしれない「人新世」(Anthropocene)において、地域計画のなかで社会-生態系の「レジリエンス」(resilience:回復力、弾性)の向上に取り組むことが今後ますます重要となることが予測されることを報告し、意見交換を行った。 ・Asia Pacific Society for Agricultural and Food Ethics 4th Conference(第4回食農倫理学会議:APSAFE2020)を12月3日から16日にかけて、オンラインで開催した。前述のトンプソンをはじめとするゲストスピーカーをはじめ、50名ほどが参加し、食を中心として地域の、そして世界の持続可能性の向上に向けた取り組みへの倫理学の貢献のあり方についての意見交換の場を設けた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は、複数の学会での学会報告と意見交換会を通じて、風土論に関心を持つ研究者・実践者のみならず、学際的な場で活躍する研究者・実践者らへの聞き取り調査を実施することができた。この聞き取り調査により、以下の点を確認した。 (1)地域計画の立案において、グローバルな問題関心をどのようにローカルな問題関心と接続するかは、学術分野・実践の種類を越えて共通する論点である。地理的・社会的不均一さや、世代的・性別等で異なる問題関心を、グローバルな問題関心のもとで見落とすことなく、術語の濫用やある手法の過剰評価などで問題が現実から乖離し、取り組みが自閉化する陥穽をどう避けるかについて、大きな関心がもたれている。 (2)風土論に求められるのは、"正解"("正しい解決策")ではなく、現場で行われている細かい議論をはり合わせていく際の可視化の方法である。和辻の行った風土の類型化はその一例といえる。「思考に補助線を引く」とは、明確化されていないが可能な関係を見て取れるようにすることであり、ありうる可能性を実現させるにあたり、どのような素材を持ってくるか、どのように実際に組み合わせるかを検討する場を作ることである(三角形の内角の和をを求めるとき、補助線を引くことで必要な作業が導かれるように)。風土の言及という仕方での可視化は、特に以下を可能にすることが期待される:①制御可能な単位を括りだす、②現にあることとは他の可能性、現実とは両立しないものを議論の対象にする、③ある取り組みについての、複数の・ときには矛盾する評価軸の併存を検討する。 (3)その地域の風土としてひとまず貼りあわされた、ビジョン、アイデンティティは、"正解"を示す道筋ではなく、計画・理論に巻き込まれる参与者を間接的に共作者にするための媒体として位置づけられる。
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今後の研究の推進方策 |
研究の進捗は十分に進んだため、2021年度はこれらの内容をまとめた単著の刊行準備に集中する。
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