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2020 年度 実施状況報告書

北極グリーンランドにおける科学と在来知の調和と背反をめぐる政治学的実証研究

研究課題

研究課題/領域番号 19K20514
研究機関北海道大学

研究代表者

高橋 美野梨  北海道大学, スラブ・ユーラシア研究センター, 助教 (90722900)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2023-03-31
キーワード科学知 / 在来知 / グリーンランド / 互酬性 / 功利主義 / 人間と自然の交流の位相 / 市場 / 公衆衛生
研究実績の概要

初年度から引き継いだ論点を含め、大きく二つの方向で研究の進展があった。
一つ目は、初年度からの取り組みとして、人間と自然の交流の位相を定位していく過程において、グリーンランド・イヌイット社会における自然への処し方が、互酬性と功利主義的思想に基づくそれとの折衷で成り立っていることが明らかになった。しかし、その動性に関する研究が、管見の限り世界的にも皆無に等しい状況にあり、そこに切り込む際には、先行研究において断片的に指摘されながらも、充分に検討されることがなかった①キリスト教的思想との習合および教派の違いによる影響、②世俗/近代化の影響、③イヌイット社会に広く知られている確立した社会的地位としての「長老」がグリーンランド・イヌイット社会において不在であること、の三要素およびそれらの間の相関を丹念に跡付けていく必要が示唆された。
二つ目は、科学知と在来知との調和と背反に焦点を当てる際に、グリーンランドにおける市場(Kalaaliaraq, Kalaalimineerniarfik)の持つ機能に着目する意義である。市場は、衛生要件でデンマーク食品法(約95%がEU規則に基づく)に依拠しつつ、グリーンランド人「になっていく/であり続ける」ために機能する、すなわち(デンマーク等との)文化的境界を維持する機能を持つ。両者が動的にバランスする空間が「市場」であり、科学知と在来知の関係を紐解く事例として適当だが、この辺りの議論の深度を深めていく上で、文献・資料収集やインタビューの遂行等、現地調査の持つ意味は小さくない。新型コロナウイルス感染拡大等の影響で実施できない現地調査の有無が、三年度目の研究の進展に大きく関係するだろう。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

初年度に検討したのは、人間との係わりの中で説明されてきた自然の意味と射程、そしてそれを科学知と在来知という視座から、人間との関係のなかに再定位していくかという点であった。しかし、「研究実績の概要」でも述べたように、その動性に関する研究は管見の限り世界的にも皆無に等しい状況にあることが明らかになった。こうした研究の現在地をふまえつつ、二年度目は、中央政府が置かれるデンマークの食品法や欧州連合(EU)の衛生観念に関する文献収集、現地(コペンハーゲン、ブリュッセル)での政策決定者とのインタビューを通して、主に科学知に関する基礎的な情報収集を行う予定であった。
しかし、オンラインで入手できる文献等を使用した取り組みや、別プロジェクトで展開中の共同研究との相乗によって研究の進展は見られたものの、新型コロナウイルスの感染拡大により、現地調査を行えなかったことは、本研究の遂行に大きな影響を与えていることもまた事実である。同時に、科学知と在来知との調和と背反を考えていく際に無視できない自然の意味と射程、そしてそれを人間との交流の位相にどう接続させていくかという点で試行錯誤を繰り返していることもあり、三年度目に現地調査を遂行できるかどうかは、研究の進捗度の点で分水嶺になりそうである。

今後の研究の推進方策

三年度目は、人間と自然の交流の位相というこの二年度間の取り組みを通し生成され、また積み残された課題と向き合い続けることを第一の目的とする。それは、二年度目に着手する予定であったデンマークの食品法とEUの衛生観念の相関に関する現地調査を通じて行われる必要がある。

次年度使用額が生じた理由

初年度と同様に、家庭の事情および新型コロナウイルスの感染拡大により、予定されていた現地調査を行えなかったため、次年度使用額が生じた。三年度目は、感染症リスクをふまえつつ、可能な範囲で現地調査を行うことで、繰り越された予算を執行したい。

  • 研究成果

    (6件)

すべて 2021 2020

すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件) 図書 (4件)

  • [雑誌論文] The Politics of Whaling and the European Union2021

    • 著者名/発表者名
      TAKAHASHI, Minori
    • 雑誌名

      Senri Ethnological Studies

      巻: 104 ページ: 225-245

    • DOI

      10.15021/00009664

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] 互酬性と功利主義:北極グリーンランド・イヌ イット社会における自然観について2020

    • 著者名/発表者名
      高橋美野梨
    • 学会等名
      日本島嶼学会
  • [図書] Exploring Base Politics: How Host Countries Shape the Network of U.S. Overseas Bases (Routledge Advances in International Relations and Global Politics)2021

    • 著者名/発表者名
      Shinji Kawana,Minori Takahashi, Matteo Dian, Shino Hateruma, Keisuke Mori, Kohei Imai, Masaki Mizobuchi, Kei Koga, Tomonori Ishida
    • 総ページ数
      208
    • 出版者
      Routledge
  • [図書] 基地問題の国際比較:「沖縄」の相対化2021

    • 著者名/発表者名
      川名晋史、今井宏平、石田智範、森啓輔、辛女林、溝渕正季、高橋美野梨、波照間陽、古賀慶、マッテオ・ディアン
    • 総ページ数
      304
    • 出版者
      明石書店
  • [図書] Permafrost and Culture: Global Warming and Sakha Republic (Yakutia), Russian Federation (CNEAS Report Book 26) (English Edition)2021

    • 著者名/発表者名
      Hiroki Takakura, Vanda Ignatyeva, Yoshihiro Iijima, Alexander Fedorov, Hirofumi Kato, Atsushi Nakada, Yuka Oisi, Tetsuya Hiyama, Masanori Goto, Yuichiro Fujioka, Toshikazu Tanaka, Sin Sugiyama, Syunwa Honda, Hotek Pak, Fujio Onishi, Minori Takahashi, Sinichiro Tabata, Natsuhiko Otsuka, Mathias Ulich, Otto Habeck
    • 総ページ数
      94
    • 出版者
      Center for Northeast Asian Studies, Tohoku University
  • [図書] 捕鯨と反捕鯨のあいだに:世界の現場と政治・倫理的問題2020

    • 著者名/発表者名
      岸上伸啓、赤嶺淳、李善愛、生田博子、石井敦、石川創、 伊勢田哲治、臼田乃里子、河島基弘、倉澤七生、佐久間淳子、真田康弘、高橋美野梨、浜口尚、本多俊和、吉村健司、若松文貴
    • 総ページ数
      336
    • 出版者
      臨川書店

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公開日: 2021-12-27  

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