研究課題/領域番号 |
19K20515
|
研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
幸加木 文 千葉大学, 大学院社会科学研究院, 特任研究員 (80794312)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | トルコ / 市民社会 / 市民社会組織 / イスラーム |
研究実績の概要 |
本研究は、市民社会組織(CSO)や個人の分析を通じて、変動する公正発展党政権期のトルコの世俗化/宗教化の様相、信仰の在り方の多様性、社会的分断の要因等について分析し、またトルコ国内外におけるCSOや個人の活動の双方向性や越境性、それらの相互作用に注目したトルコの政教関係及び市民社会の変動を捉えることを目指す。政策や政治情勢が市民社会や個人に及ぼす影響を、政治分析のみならず、未だ研究が手薄なトルコの市民社会の観点から分析する点に意義及び重要性が見いだせるものと考える。 3年目にあたる2021年度は、5月に日本中東学会年次大会にて、「人権」を巡る議論及び問題点を批判的に検討する口頭発表を行った。「人権」規範のトルコでの受容の経緯を踏まえ、政府が人権問題に対応する一方で、近年民主化から後退しつつある現状を概観し、政治家をはじめとするアクターの言説から問題点を指摘し、出席者との議論からも考察を深めた。 また、3月にはシンクタンク主催の勉強会講師として、トルコの女性に関する諸問題を踏まえ、女性に関するCSOの特徴及び傾向、今後の課題等について口頭発表を行った。ジェンダー問題に取り組む世俗派や宗教保守派、トルコ系やクルド系、そして反資本主義系の女性団体が、目的や活動内容、担い手や背景、政権との関係や資金調達方法等の点で差異があることを紹介し、質疑応答を通じてトルコの市民社会及びCSOの活動を政治・経済問題から考察する機会とした。 本研究の柱の一つであるトルコ国外のトルコ系CSOの活動調査については、前年度までに実施した聞き取り調査と口頭発表を元に加筆修正した上で、英文ワーキングペーパーとして刊行した。新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、国外での対面調査は実施できなかったが、代替としてオンラインによる調査、情報収集を実施し、次年度の対面調査の実施に繋がる人脈を維持することができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3年目にあたる2021年度は、新型コロナウイルス感染症の世界的拡大のため、国外における直接の対面による聞き取り調査及び文献調査を実施することはできなかった。代替として、メールやZoom、各種アプリを利用したオンラインでの情報収集を随時行った。十分とは言えないものの、現状について聞き取り調査を行い、次年度の対面調査の実施に繋がる人脈を維持することができた。一方で、オンラインによる調査手法は既にコンタクトが取れている相手に限られ、新しく対面で調査対象を広げることは困難であった。 また、これまでに収集した関連文献・資料の読解を進め、日本中東学会及びシンクタンクにおいて、トルコの市民社会の人権問題及び女性に関する諸問題について口頭発表を行った。これらの研究発表によって、トルコの市民社会における課題と、それらに取り組む種々の国内のCSOの活動についてさらに知見を深めることができた。 また、トルコの宗教系市民社会運動のドイツ在住メンバーの活動、自らの信仰との関係、トルコ及びアメリカ在住のメンバーとの関係性、上意下達の指示に妄信的に服従する姿勢の是非について、調査時以降のメンバーらの新たな言説分析を加筆した上で、英文のワーキングペーパーとしてまとめた。市民社会組織の変容とともにトルコ政治社会の変動を照射する点に意義を見いだすことができると考える。 このような市民社会組織を中心としたトルコの市民社会の変動に関する単著を継続して執筆中であるが、現地調査が予定通りには実施できておらず、トルコ国内外の団体の相互関係及び動態に関しては、限られた事例研究に留まることが予想される。したがって、次年度の聞き取り調査の実施及び分析のため、本研究課題の研究期間の延長を検討する必要があると考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
4年目にあたる2022年度の研究の推進方策としては、新型コロナウイルス感染症の終息状況を見ながら、トルコ国内外の世俗派、宗教保守派、無神論者等の市民社会組織(CSO)及び個人等の研究対象の調査を継続していく予定である。同時に、調査先のコンタクトパーソンとの連絡を維持しつつオンラインによる調査実施をも視野に調整、準備を進めていく。 オンラインによる調査は、対面調査と比べて先方との関係性が築きにくく、情報・データの管理の点でもインフォーマントを不安にさせる可能性があり、インフォーマントに悪影響が及ばないことを最大限に留意しつつ、調査を実施する必要がある。これまで現地調査で聞き取りをしたインフォーマントに対する継続的な調査を模索し、かつその人物を通じて調査対象を広げていけるように模索する。特に、研究対象のCSO及び青年層を中心にトルコ国内外に暮らすトルコ人たちの活動と信仰の関係性、政策や政治情勢の影響、トルコ国外の活動とトルコ国内及び他国との相互作用等に注目する。ただし、調査対象国・地域に関しては、現状において実施可能性が高いところを選択することとし、当初の予定の変更も視野に実施していきたいと考えている。 他方で、これまでの文献調査及びオンライン上の言説資料を用いて研究を推進していく。研究の進捗と必要によっては、研究期間の延長を含めた研究計画の変更を検討することとする。引き続き、本研究課題に関連する文献・資料収集を継続しつつ読解を進め、研究課題に関連した学会発表を行うと同時に、本研究成果を書籍として刊行するために鋭意執筆を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
主として旅費の執行ができなかったことが、次年度使用額が生じた理由である。次年度は現地調査等で使用する予定である。
|