本研究は、トルコの市民社会組織(CSO)や個人の言説分析を通じて、変動する公正発展党政権期のトルコの世俗化/宗教化の様相、信仰の在り方の多様性、社会的分断の要因等について分析するとともに、トルコ国内外におけるCSOや個人の活動の双方向性、グローバルな人や思想、情報の越境性、それらの相互作用に注目してトルコの政教関係及び市民社会の変動を捉えることを目指すものであった。 調査対象は、2016年以前は世界100か国以上で活動を広げトルコのパブリック・ディプロマシーの一端を担っていたギュレン運動を主とした。同運動は、2016年のクーデター未遂事件の首謀者とされ徹底的な取締りの対象となったが、その捜査及び法的措置に関しては妥当性に疑義と人権侵害の恐れがあり、2000年代以降のトルコ政治と市民社会の関係性を研究する上で看過し得ない重要性を有する。また、本研究は国外に暮らすギュレン運動の参加者がトルコの政治社会的変動によって個々の人生と信仰心にいかなる影響を受けたかを調査し、市民社会活動と信仰のありようの一事例として解明する宗教社会学的な意義を持つ。 2019年にアメリカ4都市で主に運動幹部を対象に聴き取りを行い、コロナ禍を挟んで2022年に英国にて1990年代の移住者やその移民2世に聴き取りを実施した。最終年度には2023年6月にギリシャ、2024年2月~3月にオランダ、ルクセンブルク、スイスの欧州4か国5都市にて、特に2016年以降に政治難民となった人々を対象にそのライフストーリー、活動への関与や信仰上の変化の有無等を聴き取りした。調査者が女性である点を活かし、特に女性メンバーを対象に意思決定過程への関与や教育問題への取り組み等を調査した。4年間の100人超への調査を踏まえ、運動参加者の一回性の人生が変転した現状とトルコの政教関係及び市民社会の変化を分析した単著を鋭意執筆中である。
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