研究課題/領域番号 |
19K20520
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉川 みな子 京都大学, 次世代研究創成ユニット, 特定教授 (70636646)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 蚊防除 / 地域住民 / サイエンスコミュニケーション / シンガポール / 社会実装 / 観光地 |
研究実績の概要 |
2020年度には、前年度に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のため延期した臨地調査をシンガポール共和国において実施できるよう、渡航に向けて調整を試みた。しかし、到着後・帰着後2週間の移動制限等が課される状況が続いたことから、以下3つの項目を進めた。 1)ボルバキア技術に関する情報収集については、オンライン及びメールを活用して、シンガポール国家環境庁を中心に聞き取り調査を続けた。シンガポールがボルバキア技術により生殖システムを操作した媒介蚊を住民居住区で放虫するという社会実装に踏み切った背景、住民の協力を得るために行った活動内容、またその頻度等についての情報を収集した。さらにボルバキア感染蚊のリリースのフェーズ4の実証が2020年7月に終了したことから、その成果についても情報収集した。2019~20年度の調査結果は、ブックチャプターの原稿に含めて執筆し、投稿済である。 2)シンガポールではCOVID-19の拡大に伴い、一時デング熱の報告数も急増したことから、臨地調査を行う必要性は極めて高い。しかし、COVID-19による海外渡航制限が続くと考えられ、研究計画遂行のため、国内における代替調査地の検討を開始した。蚊媒介性感染症が過去に大流行し、デングウイルス等の媒介蚊の発生が危惧される地域として、亜熱帯気候の沖縄県石垣島及びその周辺の島の検討を開始した。シンガポールとは都市化の状況、人口密度等が大きく異なるものの、島国及び観光地である点が共通している。 3)COVID-19に関わるサイエンスコミュニケーションから、本研究への示唆を得ようと考え、報道番組や動画の記録・保存を行った。蚊媒介性感染症の動向については国内学会への参加を通じて情報収集するとともに、媒介蚊に関する最新の著作及び代替調査候補地の沖縄県に関する文献を収集し、文献精査にとりかかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
COVID-19のパンデミック発生、およびその影響による海外渡航が困難となる期間が長期化するという、当初予期しえなかった事象の発生により、現地におけるフィールド調査を遂行することが極めて困難となった。以前のように年に数回渡航し、現地にて自由に移動ができるようになるまでには、更なる時間を要する見込みである。 このような状況ながら、現地の研究協力者からのデング熱流行などの情報は引き続き得られており、いっときはCOVID-19により困難となった当局からの情報収集についても、オンライン、メール等にて再開することができている。文献調査を前倒しで行うことにより、本研究の当初2年度分の成果の一部を、共著者とともに論文にまとめ、既に投稿を終えている。 しかし、シンガポールにおける臨地調査が行えないことから、現地資料の収集、政府主催イベントにおける参与観察等が行えない状況が続いており、研究計画にやや遅れが生じている。 この状況を部分的にでも改善できるよう、代替調査候補地として沖縄県を検討し、予備的な現地調査を1回行うとともに、文献収集および精査を開始している。 さらに、COVID-19に関する報道番組等のメディアから得られる情報は大量に入手が可能であることから、サイエンスコミュニケーションの考察に活用することを目的として記録・保存を進め、現地調査が行えないことによる研究の遅延の挽回に努めている。
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今後の研究の推進方策 |
シンガポールへの渡航及び現地における調査が行える時期についての見通しを立てることが難しい状況が続いている。できる限り早いタイミングで臨地調査を再開し、研究を展開したいと希望しているものの、まだしばらく海外渡航がままならない状況が続くことも案じている。 そのため、今年度はシンガポールへの入国・現地調査が可能になり次第渡航できるよう準備するとともに、観光地における媒介蚊に関する注意喚起等の状況、蚊防除に関する住民の考え方などについての調査が行える国内の代替地として検討している沖縄県の石垣島およびその周辺の島の予備的な現地調査を継続する計画である。文献収集と精査も続ける。 沖縄本島における現地資料の確認、石垣島の周辺の2~3島において、観光エリアにおける蚊の発生状況、観光業従事者及び住民の蚊防除意識に関する予備的調査を検討している。これらの結果を総合的に勘案し、遅くとも年末までには代替地の選考及び現地調査の実行の可否の判断を終える予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19によりシンガポール現地調査が行えなかったため旅費の執行に遅れが生じている。また現地における資料収集が行えないことから資料整理に必要な人件費が発生しなかった。現地調査代替地として検討している候補地への旅費、それに伴い収集する文献購入費、及びサイエンスコミュニケーションの考察にかかるデータ保存のメディア等の消耗品に充当するとともに、海外渡航が可能となり次第、現地調査の旅費として執行する計画である。
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