最終年度は、2022年度までに臨地調査などにより収集したデータ(ボルバキア技術を用いた社会実装に関する住民への働きかけ、その前後のサイエンスコミュニケーションの内容と実施方法、多言語、多文化に配慮した対応例、および当局がどのようなメッセージや戦略が有効と考えたか、等)の分析を行った。渡航機会と期間が当初の予定より減少した点については文献調査により補い、蚊防除に関する住民啓発のための取組みの現状把握に努めた。住民への問題意識を根付かせようとする当局の戦略を浮き彫りにすることを試み、官民協力の基盤づくりに寄与している政府与党の議員たちによるサイエンスコミュニケーションについて考察した。1年間研究期間を延長したことにより、臨地調査によるデータ収集の遅れを挽回し、当初の研究目的はおおむね達成することができたと評価している。シンガポール当局の研究協力者とともに一連の研究成果を英語論文にとりまとめ、1月に投稿した。 当該研究の総括にあたり、2~3月にかけて亜熱帯地域として沖縄県の媒介動物の研究施設における参与観察等を行い、シンガポールにおいては研究成果を当局へ還元するとともに、当局の活動の実態をデング熱の発生地域において確認した。 研究期間の半分以上が新型コロナウイルス感染症の世界的な流行の影響を受け、渡航機会のみならず学会における研究者間の意見交換の機会が限られてしまったことと、市民講座等の開催機会が限定的であったことについては、一部オンラインなどによる参加も試みたものの十分挽回することが難しかった。研究期間終了後も引き続き当該研究成果を用いたアウトリーチの機会を模索してゆく計画である。
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