スリランカでは過去20年強で家族主義を軸に据えた高齢者政策が策定・整備されてきたが、これは養育や養老などケアの営みを私的領域に委ねようとする新自由主義の流れと共犯的な関係において展開した。国内外出稼ぎの常態化、社会の流動化を背景に、子から親への扶養やケアは自明なものではなくなっているが、本研究では今日的状況におけるスリランカの高齢者福祉の在りようを政策面と民族誌的調査の両面から捕捉しようと試みた。 研究期間全体を通じて、1)スリランカにおける社会福祉の在りようを整理しつつ、2)都市部自宅で慢性疾患を抱えて高齢者のケア・ネットワークと社会保障手当の働き・限界、3)農村部に取り残された高齢者と人道主義的な贈与、4)高齢者施設における高齢者ケアという異なる領域における養老・介護の実践について考察した。また5)ケアの領域と理論的に関連のある日常倫理と民族誌的記述の関係や、6)介護における器具や技術の媒介過程についても考察した(共編著2本、日・英分担執筆6本、日・英雑誌論文3本、その他口頭発表や概説として発表)。 コロナ禍で予定していた現地調査は見合わせることになったが、代わりにスリランカのペラデニア大学の研究者の協力を得て、スリランカにおける世代間関係と高齢者ケアに関するサーベイ調査に着手した。①老年扶養や身の回りの世話にまつわる家族・親族の福祉的機能、②国家による社会サービスや医療・福祉政策が老年期のライフコースや世代間関係に与える影響、③家族・親族及び公的サービスを代替・補完する仕組みとしての地域の人々や宗教施設、ボランティアや市民団体などによる活動の3点について、都市部と農村部という異なる生態的・社会経済的条件のもとにある地域に共通して使うことができるような調査票を作成し、データをめぐって計5回のオンラインミーティングを実施した。
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