研究課題/領域番号 |
19K20526
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
鵜戸 聡 明治大学, 国際日本学部, 専任准教授 (70713981)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アルジェリア文学 / マグレブ文学 / ユマニスム / ベルベル文学 |
研究実績の概要 |
当該年度は、過年度に引き続きコロナ禍で海外調査や海外研究者との研究交流が著しく阻害されたものの、その代わりに当初の課題を新しい方向に展開させる契機が得られた。 当該年度中に発表した実績としては、アルジェリア人研究者との協力で制作した『アイト=メンゲッレト詩集』が挙げられる。これはカビール語(アルジェリアのベルベル語の一派)の現代歌謡のオリジナル・アンソロジーであるが、すでに生ける伝説となったカビールの詩人歌手ルニス・アイト=メンゲッレトの詩=歌詞をフランス語と日本語に編訳し、ローマ字表記のカビール語原文を添えたものである。制作に当たっては詩人本人の許可のほか、その詩の専門家であるアリー・シバニ博士の全面的な協力を得た。アイト=メンゲッレトは少数言語の擁護者としてNHKのドキュメンタリーに撮られたこともあるが、口承言語の振興と教育への寄与のみならず、宗教や政治のイデオロギーや古い慣習に抗う詩の内容においても、まさにユマニスムの実践を行なっている。 また、ラシード・ブージェドラのポストモダン的アラビア語小説『ジブラルタルの征服』や最新のホシーン・タンジャーウィー『あらゆる男たちもまた』の精読を通じて、フィクションとしての歴史への介入、あるいは主流の歴史の語りからこぼれ落ちた物語の不在そのものを焦点化する試みを検討した。 アヴェロエス(イブン・ルシュド)の現代的受容についても、その理性主義とヨーロッパ文明への寄与を強調する研究のみならず、むしろ一般読書人への影響が大きいと思われる歴史小説(例えばジルベール・シヌエの作品群)においてアヴェロエスがどのように描写されているかに注目した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、過年度に引き続きコロナ禍で海外調査や海外研究者との研究交流が著しく阻害されたため、当初の計画を大幅に変更することは不可避であったが、その一方で当初の課題を新しい方向に展開させる契機を得て問題意識がより明確なものとなったため、総合的に判断して順調に研究を推進していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
当初からの課題であった現代イスラーム論やアラブ文学・マグレブ文学研究におけるユマニスム的価値観の研究を継続しつつ、口承言語の書記化や翻訳との接合点を探っていく方向に研究を発展させたい。アラビア語マグレブ方言や、カビール語を中心としたベルベル語が、正則アラビア語やフランス語で書記化された文学のなかでどのように生かされているのか、あるいはそもそもほぼ全てが地域語で生きられた現実の翻訳であるとも言えるフランス語圏文学を人文主義的な見地からどのように捉えるべきかを具体的に検討したい。例えばムールード・マムリにおけるカビール語、ムハンマド・シュクリーにおけるモロッコ・アラビア語などが対象となりうるが、さらにはウォロフ語小説やオック語文学とともに議論をすべき土台を整理していきたい。アブデルケビール・ハティビやアブデルファッターフ・キリトーの文芸批評における言語論が、デリダの『他者の単一言語使用』とともに重要な参照軸になると見込まれる。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍によって海外調査や海外研究者の招聘が全て中止となり、その分の予算を次年度に繰り越したため。海外渡航や招聘が可能になりしだい延期していた予定を実施することで使用したい。
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